気づいてほしいと思うことも我儘だったのだろうか、



 生と死の選択を迫られている。いや、これは自分でつくりだしたも同然であるから、迫られているというのは間違いかもしれない。気を抜くとバランスを崩して落ちてしまいそうな不安定な足場の上で、わたしはぼんやりと今日この日までの人生を振り返っていた。
 わたしは素のままの自分を見せるのが苦手だ。素のままの自分とは、一切合切飾らず偽らず、ありのままの自分という意味だけれど、どうもわたしは生来人に好かれるような人間ではないようなので、素のままで生きていくなんてことはわたしにとってあまりにも無理難題だった。それを誰に強要されたとか、そういうのではない。ただわたしがわたしであると、少し、生きにくいことも事実だった。
 この世界には理解できないことで溢れている。人間の感情なんてものは、わたしがもっとも苦手とする分野だ。何を言ったところで人の神経を逆なでしてしまうのだから、わたしにできることといえばただひたすら口を噤んでいることくらい。そうしたら、ほんのちょっとだけだけれど、息をすることを許された気がした。
 それだから尚更本音を言ってしまうことは躊躇われた。自分の正直な気持ちを相手にぶつければ、酷く苛立たせたり、傷つけたりしてしまうのだと気づいた。わたしの言葉の一体何がいけなかったのか、もう二度と同じ轍を踏まないようにと自分の言動を省みてもその答まで行きつけない。わたしは多分人間としてどこかおかしくて、何か欠けているのだろう。
 言いたいことも言えないこんな世界は苦しい。自分で自分の首を締めているのか、他人がわたしの首を締めているのか、もう判断がつかなかった。だからわたしは目の前に縄の輪っかを垂らし、こんな心許ない丸椅子の上に立っているのだ。どうせなら自らの手ではっきりさせて、いたずらにわたしを弄ぶだけの世界と決別したかった。

 わたしの心のやわらかい部分は、責め立てられた悪意が鋭い針となって刺さり、もはや一部の隙もない程だ。時間にして約二十二年、往時を回顧してみたものの、やはりこの世になんの未練もない。それはとても哀しいことだとまるで他人ごとのように思いながら、わたしは椅子を蹴り飛ばした。






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