鬼兵隊の花見話
鬼兵隊の花見話


「晋助様の隣は私が座るのーっ!!」
「小娘は武市先輩の隣にでも座ってりゃいいッス!」
「やだっ!!折角のお花見だもん、晋助様の隣がいーいー!!」
「やだってそれは何か失礼な発言では……さん……」
「だったら、河上の隣もあるじゃないッスか!!」

日本人の心、とはよく言ったものでひらりひらりと舞うその優雅なまでの姿に普段は無愛想にしかめっ面をしている高杉でさえも、思わず頬を綻ばせていた。
…最も、何本かある桜の木の下の一本の下では壮絶なまでの(醜い)争いが行われている訳だが。
声も早々届かない遠い場所で一人酒に舌鼓を打ち、舞い散る桜花を見つめている高杉。

「大体、はいつもいつも晋助様晋助様って、アンタ、晋助様の何々ッスか!!」
「何って、私は晋助様の……。……何々だろう……」

思わず黙り込んだに拍車をかけるようにまた子が追い討ちをかける。

「何も武器が使えない、女の色気もない小娘は布団で寝てるッスよ!!」
「あの、また子さん…それは言いすぎでは……」

黙り込み、俯いたを気の毒に思ったのか、鬼兵隊の隊士の一人が声をかける。

「…う…」
「「「う?」」」

また子を始め、武市、万斉が言動をやめ、小さな声を漏らし始めたの顔を覗きこむ。
ぽろぽろと大粒の涙が頬を伝い、地面に落ちていく。

「……高杉に見つかったら大変でござるな…」

のんびりと暢気そうな口調で万斉が言えば、慌てた様子でまた子がの肩を掴む。
気まぐれに拾ってきた子猫ような存在ではあるが、高杉がどれだけ溺愛しているかは本人以外はよく知っている。
武器が使えないのではなく、『持たせてもらえない』が正解だし、色気がないのはそういう知識がないためだ。

「うぅ……ひっく……。うええええん…」

(((やってしまった……!!!)))

「なっ、泣き止むッス!!後で綿菓子買ってやるッスから!!」
さん、大丈夫ですよ。今が一番女の子として可愛い時期です」
「フォローになってないッスよ、ロリコン!!」
「フェミニストですよ、失礼ですね!!」
「何泣かしてやがる…」

如何な離れたところに居るとはいえ、座り込んで泣いている姿をあの高杉が見逃す訳もなく。
手には煙管。
そして刀を持ち、若干千鳥足で桜の下に立っていた。

「ああ、泣くな泣くな。
後で桜餅食わせてやらァ」

ひょいっと片手で抱き上げるとすたすたと酒瓶の置いてある特等席へと戻る。
桜の木の下には死体が眠っている、という伝説を身で以て体験する事にならなくてよかった、と思わず呟いていた。

fin

☆☆☆☆
ジャンル:銀魂

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