TA Clap 6
Yakiniku Quest Tezuka Ver.
※手塚が人でなしで食い意地が張ってます。ご注意ください。



「うぎゃーーーっっ!!」
椅子を薙ぎ倒し、壁にぶつかりながらまた一人、哀れな犠牲者が瀕死の叫びを上げながら外へと飛び出していく。
そこにはどんな地獄が広がっているのか。
店内の喧騒を縫って時折り聞こえてくる断末魔の叫び。
想像するだに恐ろしい。
俺達は全国大会決勝進出の祝賀会で楽しく焼肉パーティーをしていたのではなかったのか。
それが一体なぜこんな事に……。
偶然のいたずらで全国大会を戦った5校がこの焼肉屋に集い、それがまた揃いも揃って負けん気の強い奴らばかりだからなのか。
誰がこんなくだらないことを言い出したんだろう。


―――でも、まあいい。やるからには負ける訳にはいかない。全力で俺たちはぶつからなければならない。
当然勝負には褒賞、もしくは罰が必要になってくるだろう。
そして青学での罰ゲームといえば――そう乾汁。
乾が罰ゲームとして俺達に得体の知れない汁を飲ませるのはいつものことだ。
それが今回は他校をも巻き込んでしまっただけの話だ。しかし一つ不思議なのは、なぜあんなにバリエーションに富んだ乾汁を用意していたのかということだ。

………………………
………………………………………………
他校の奴らがいてくれて本当によかった。俺は心から安堵した。
それな俺は乾汁の破壊力について一応の忠告はをした。
油断せずに行こう、と。

俺は心の中で軽く手を合わせると、表面に軽く網目のついた肉に視線を戻す。
敗れ去っていった奴らのことや、ドリンクの謎を思い煩っても仕方がない。
それよりも目先の肉だ。
(そろそろ――いや、もうちょっと焼いた方がいいか)
箸の先を小刻みに動かして、どうすべきか迷う。
異常なテンションで肉の焼き加減に口を出していた大石が消え去った今、やっと自分の好きに焼ける時が来たのだ。

まったく大石が焼肉に関してあんなに口うるさいとは思わなかった。
鬼のような形相で眦を吊り上げ網に乗った全ての肉に目を配り、あれこれ指図をしたり彼の目を盗み肉を取ろうとする奴らに怒鳴り散らしていた。
その支配ぶりときたら、後ろにも目があるのかと思うくらいの徹底ぶりで。

恐らく最良の焼き加減で、俺達に肉を食べさせてやりたいという、大石の親切な気持ちが高じたものだとは思うが、正直うざかった。
というか焼き肉を食べていると言う気がしなかった。
大石には悪いが、二度と一緒に焼肉はしたくないと思う。
肉の焼き方なんて人それぞれに好みがあるのだから。
本当に乾汁で撃沈してくれてよかった。
それでも『ギアラは脂が落ちるまでよく焼いてから食え』と、顔面蒼白になりながらも言い残して行った姿に、焼肉奉行の心意気を感じた。
あくまで感じただけだが。


さあ、これからが本番だ。
(とりあえずひっくり返すか――っ!)
俺が目をつけていた肉に箸を伸ばそうとしたその時。
「あ、これもーらいっと」
越前がジュウジュウと音を立てる肉を、横から掻っ攫っていく。
(貴様っ!)
それは俺が面倒を見ていた肉だったのに!
カッとして睨みつけても、越前はどこ吹く風とばかりに平然と肉を咀嚼している。
(遠慮という言葉を知らないのかっ。少しは周囲の状況に気を配れ。お前の領域はそこじゃない)
俺は舌打ちをすると皿から取り出した肉を、あからさまに自分の前に乗せた。


「手塚……」
乾の呆れた声は無視する。ふん、悪いか。
大人げなかろうが何だろうが、俺だって焼肉は好きなんだ。
「あいつらに追いつくには、まだまだ食わなくちゃならないんだぞ」
「分かってる」
だが他人に焼いてやっていた肉と、自分用に大事に育てていた肉は違う。お前には分からないか。
乾のメガネのレンズがキラリと光る。
「……どうやらお前の焼肉に対する意気込みを、俺は見誤っていたようだ」
俺は短く頷くと、現在トップを独走する跡部のテーブルを振り返った。


相変わらず豪快にトングで肉を掴み食べ続ける樺地の隣で、跡部は余裕たっぷりに腕組みをして座っている。
だがあいつの前に置かれた皿も箸も、使われた形跡が全くない。
これ程食欲をそそる匂いが充満している店内で、何も口にしないで座っているとは。
(腹でも壊しているのか? 普段は結構食べる方なのに)
俺の視線に気づいた跡部がニヤリと笑う。
(……そういうことか)


情の通じた者同士、俺と跡部は目を見ただけで相手の考えが分かる。
とにかく樺地に一点集中で肉を食べさせ続け、他の奴らには汁を担当させる。
そして樺地が倒れたところで、跡部が満を持して登場するという寸法だ。
実はあいつもかなりな肉好きなのだだ。それが今まで肉に手をつけないで我慢しているあたり、たいした精神力だと感嘆する。全く無駄な忍耐とも思えるのだが。

大体こんな安い肉なんか食えるかとほざいていたが、牛丼好きな樺地と一緒に、部活帰りに○野家に通っているのだから、口に合うも合わないもないだろう。


『てめーには負けないぜ。勝つのは俺だ』
跡部の瞳が俺を挑発する。
いいだろう、跡部。俺は負けない――。
もはや氷帝はお前と樺地が残るのみ。次のドリンクはどっちが飲む?
果たしてお前に乾汁が飲めるのか。

だが唐突に俺は重大なことを思いついた。
お前の苦しみ悶える顔を、他人に見せる訳にはいかない。
あんな、見ようによっては色っぽい顔は――。

だが跡部が乾汁を飲むことになれば、俺に止める手立てはない。
どうすればいい――。
飲む前に部長権限でゲームの中止を宣言するか。それとも跡部を連れて逃げるか。
実行に移せそうにない考えばかりが浮かんでくる。

結局俺に俺にできることと言えば――。
またしても図々しく俺のゲタカルビを横取りしようとした越前の箸をブロックしながら、次のドリンクの破壊力が弱いものであることを願うくらいだった。


(06.7.5.20)


焼肉の王子様ネタです。この後、跡部バージョンとか真跡バージョンとか書けるといいなぁ。(希望的観測)


拍手をどうもありがとうございました!
これからもがんばりますのでよろしくお願いします。




ついでに一言あればどうぞ(拍手だけでも送れます)

あと1000文字。