英雄は彼方へ消える 嘘予告No.17
「非情な選択」


 分かっていた。気づいていた。
 その可能性は、あるんだと。
 いつか、自分が選ばなければならない事も。

「ルールブレイカー……便利な宝具よ。そして強力だわ。まさしく切り札、ジョーカーと言えるわね」

 長い黒髪の女……遠坂凛は、責めるような語気で続ける。

「でも、その切り札を使えるのは一回だけ……いいえ。その一回さえ危ういわ」

 それは、そうだ。
 そもそも投影品。これだけの長時間存在を保っている事が奇跡なのだから。
 それが士郎の特性だと言えばそれまでだが……しかし。

「士郎本人なら、いい。補強する手立てはあるでしょう。でも、他人が使おうとするのなら」

 真名開放は、タカミチでは不可能だ。
 幸いにして、かの宝具は刺すだけで効果がある。
 タカミチでも扱える。
 だが、この投影品が、どこまで実用に耐えるかは分からないのだ。

 士郎本人なら、真名開放による魔力消費があったとしても、一回の使用で投影品が砕けたりはしない。
 しかしタカミチが使用した際の耐久度など、タカミチは解析出来なかった。
 推測もできない。

 だから、この魔女の言う事を信じる以外にはなかった。
 実際、彼女の言う事は理に適っている。
 持って一回。ただ一度きりのチャンス。それにも成功率がつきまとうギャンブルだと認識しなければならない。

「君でも、無理なのか? “魔法使い”たる君でも……」
「あまり、便利に使わないで欲しいものね」
「だが! 君の目的だって士郎の奪還だろう! なら、」

 そこまで言って、タカミチは気づいてしまった。
 彼女の瞳の奥に宿る暗い炎を。

「別に、『ここの士郎』でなくなっていいのよ、私は。私と記憶を共有している衛宮士郎が居ればいい。
 幸いにして、航界機とかいう馬鹿げたアイテムのせいでこの辺りの世界線は半ばターミナル化しているわ。
 時間移動が出来なくても、私にはいくらでもやりようはある」

 本当にそう思っているのか。
 タカミチには彼女の心中は推し量れない。
 士郎の過去を知り、士郎と彼女の関わりも知っているが。
 知っているからこそ。この彼女の変化には戸惑っていた。

「……なら。士郎を救出した上で、もう一本投影してもらえれば……」
「それも無理よ。ルールブレイカーの機能は魔術の初期化。その肉体まで治癒できるわけじゃない」

 もう、手遅れなのだと。
 例え衛宮士郎があの状態から救出されるとしても、もう戦う事などできない。
 それ以前に、一般人の日常生活を送れるかも疑問だった。
 魔術でも、魔法でも不可能。“魔法”なら或いは可能かもしれないが、それは本質からは外れてしまう。
 結局、奇跡でも起きない限りは……衛宮士郎は、例え救出されても二度と魔術は使えない。

「だから、ソレの使い道は貴方が決めなさい。
 ――憧れの英雄か。貴方の親友か。助けられるのは、一人だけよ」

 その宣告に、タカミチは視線を落とす事しか出来なかった。



ついでに一言あればどうぞ(拍手だけでも送れます)
お名前
メッセージ
あと1000文字。お名前は未記入可。