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それはあくまでも仮定の話。
「たとえば、だ」
俺の隣に腰を下ろしていたクラウドがそう何かを言いかけた。
「…何だ?」
先ほどまで互いに全力を出して手合わせをしていたため、完全に整っているとは言い難い呼吸に乗せて返すと、額に汗を浮かべているクラウドも話を続ける。
「もし俺達のうちどちらかが混沌に組していたらどうなってたんだろうな」
「……」
クラウドはそう言うと、上空を見上げた。そこには秩序の聖域の柔らかい光を帯びた白い雲しか存在していない。でもここで仲間と共にいられるというのは、俺達が秩序の戦士であるという証明でもあった。
「俺がカオスの者でもお前に惹かれたな」
仮定の話で、実際にそうなったら敵味方に分かれ殺しあうというのに、ソイツは明らかに確信した顔できっぱりと告げた。―そうして少し細められた碧の瞳は、何かを知っているのかと錯覚するくらい落ち着いていた。
「どうして、そう言い切れるんだ?」
もしそうなったら、絶対にこんな悠長に話なんて出来ないだろうと頭の端で思いながら問う。クラウドは俺の答えを受けて、見上げていた顔をこちらへと向け直した。視線が交錯し、相手の意図を探ろうとするも―その真意は分からなかった。
「何でだろうな、そんな気がするだけだ」
そうしてかすかに笑ったが―その笑みはほんの少しだけ苦味を帯びていた。
「でも、俺はお前と対峙したら剣を向けるだろう」
「…敵同士だったらな」
「お前は…」
そう告げる瞳は痛いくらいに真剣だった。
「俺が敵なら……どうする?」
―誰だ、お前は―
―……だ、記憶が無いのか?―
―敵か…そこを通してもらおう―
―……っ!―
途端、見たことのないイメージが頭の中を駆け巡った。敵だった誰かとその誰かが大切な人だと気づかず攻撃した誰かの…
「クラウド?」
「いや、いいんだ…変な話をした」
浮かんだイメージにひょっとしてクラウドも心当たりがあるのかと口を開くが、クラウドにその言葉を制された。―しかし聞かなくても分かった。
コイツは、恐れている。そうなることを。思い合っていたのにも気づかず剣を交えなくてはならない事態になることを―
「クラウド」
「あくまでも仮定の話だ」
現実は俺達は秩序の戦士で、味方同士でこうやって手合わせもできる、だからつまらない戯言だとクラウドは俺にも自分にも言い聞かせるように言葉を紡いだ。
何か、言ってやりたかった。気休めでもいい。痛々しく俺を見るクラウドの心の不安を少しでも失くしてやりたかった。
「俺達が敵同士だったとしても、俺はお前を諦めない。時に剣を向けることがあっても、必ず俺もお前も二人で助かる道を探す」
「……!」
これもあくまでも仮定の話で、実際に敵味方に分かれたら、どちらかの軍が壊滅するまで戦うのは明白だった。それでも俺は告げなくてはならなかった。
「だからお前は現実を見ろ」
仮定の話を今しても仕方が無い。それよりカオスを倒し、秩序に勝利をもたらすことを考えなければ…
「スコール…」
俺の言葉にようやくクラウドの瞳から不安げな光が消え去った。俺の言葉に深く頷き、再び空を見る。
「そうだな」
空を見上げたクラウドの呟きに、俺もそんな日が来ないことを祈った。
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