BLEACH(一護×ルキア) ざぁっと風が吹き、枝が揺れた。 ちょうど満開を迎えた櫻は微かに揺れながらも、その花弁は一枚ひらりと落ちるのみだった。 足を進め、遠ざかってきた背後から俺を呼ぶ声が聞こえる。 酒に酔って呂律の回っていない親父の声に、遊子と花梨の声も混ざった。 意識を後ろから前へと向けると、木製のベンチに腰を下ろす小さな後姿が見える。 背中で黒髪が動いて、当人が桜の木を振り仰いだのが分かる。 「…ルキア」 名を呼んでも微動だにしない。新芽を踏みながらまた一歩、一歩と近付いていく。 「ルキア」 先よりも少しだけ声量を上げれば、ようやくその髪が肩を流れ頬が見える。 浸っていたのだろう、常よりもぼんやりとした眼差しが向けられた。 「一護…、どうしたのだ?」 「別に、どうもしねぇよ。お前がいなくなったから、見に来ただけだ」 そうか、そう小さく声は聞こえなかったが呟いて、ルキアはまた横顔を晒したまま木を眺めた。 ルキアの視界を遮らないように、迂回しながらベンチへと進む。 些か不自然に空けられていたスペースに腰を下ろした。桜の花びらが一枚ベンチから落ちる。 「ほらよ」 持っていたペットボトルを差し出す。ルキアは黙ってそれを片手で受け取ると、膝の上に置いた。両手をペットボトルに添えながら、あける気配は無い。 もう一本持っていたボトルのキャップを開けて、俺は緑茶を喉に流し込んだ。苦味と甘みが口の中に広がる。 どれだけ、そうして時間が過ぎただろうか。遠くで聞こえていた一護のお父上の声はもうしない。 受け取った時は温かかったペットボトルが、指の中で少しずつ冷えていた。 「一護…」 唐突に静寂を破る。けれどそれは風に攫われそうなほど、自分が思っていたよりも小さなものだった。 「ん?」 けれど、それをしっかり聞き取ったのだろう。一護の先を促す声が耳に届く。目は向けずとも、一護の視線が向けられているのを感じる。 「花見は、どこでしても、いいものだな」 目を閉じればすぐにでも、過去の情景が重なって見える。 現世でも、ソウルソサエティーでも、櫻の花の色も香りも姿も、何一つ変わりは無い。 そして時折耳に届く賑やかな談笑も、全く変わりが無かった。 家から持ち寄った弁当を座敷の上で広げ、他愛もない話をしながら時を過ごす。 包まれるような、この居心地がよい温もりも、変わらない。 「そう、だな…」 「あ、あぁ!でも一護は花より団子だったか」 一護の声が温かく、気付けば揶揄うような言葉が口から漏れていた。 慌てて彼へと目を向ければ、案の定眉間の皺を深くさせた顔と見合わせた。 口が動くのを遮るようにして、思いついた言葉を口に乗せる。 「ルキ「あ!そういえば、団子がないぞ、一護!」 言った瞬間頭の中で遠い記憶が蘇った… 『あの、海燕殿…団子が無いのですが』 『ん?だからなんだ』 『いえ、ですから。花見とは団子を食しながらするものではないのですか?』 『朽木…。お前、ほんっと頭かってぇな。それとも、なんだ?…… 「なんだ?団子がねぇ花見は嫌なのか」 突飛とも思える言葉に、返事をすると大きく開かれた目を向けられる。 その瞬間悟った。あぁ、コイツはまた俺の知らない記憶を遡っていたのだ、と。 最初に声をかけた時に反応が遅かったのも、その為かもしれない。 「い、いや、そういうわけではないが…」 そう言ってルキアは口篭るとその顔を伏せた。前髪に隠れて表情は窺えない。ただ、ペットボトルを両手で包むように握っているのが見えるだけだった。 かける言葉が見つからず、ルキアから目を逸らす。気配で少しだけ座る位置が離されたのを感じた。 静に風が木を揺らす。花弁が擦りあって小さな音を立てた。また、花びらが一枚宙に舞う。 「よし、んじゃ、買いに行くか」 二度目の静寂を破ったのは一護だった。言った内容を飲み込む前に顔を上げてしまう。 一護はベンチから腰を浮かし、いつの間にか空になったペットボトルで自身の肩を叩いている。 「は?」 我ながら間抜けな声を出してしまった。上体を前に傾けた拍子に手の中からペットボトルが滑り落ちる。 「だから、団子。買いに行くっつってんだよ」 コロコロ、と地面を転がるペットボトルを、腰を屈めて一護が拾い上げる。付いた黄緑色の葉を手の平で払い落とす。 「こっちにはコンビニっつー便利なもんがあるからな。この時期ならどこでも置いてんだろ」 片手に二つのボトルを持ちながら、ズボンを叩いているのは財布の所在を確認しているのだろう。 満足気な笑みから結果を知るもまだ私の体は動かなかった。 「たしかコンビニは…」 周囲を見渡してから一護の足が進む。背中を眺めながら脳裏に言葉が一つ過ぎった。 『わーったわーった。んじゃ、来年。来年は団子用意してやるから』 その、『来年』は来なかった そして、一生訪れる事は無い 「ほーら、ルキア。行くぞ」 腕を掴まれて引っ張られる。重かった腰が浮いて咄嗟に足が進んだ。 そのまま引き摺られるようにして、園内を出口に向かって歩く。 何も言わない一護の背中が僅かに滲んだような気がした。 振り返るな…心で念じながら私は口を開く。 「一護…、ありがとう」 +--+--+--+--+ すみません・・・まさかの・・・・・ 8ヶ月ぶりの拍手更新です。 えぇ、前回が半年ぶりで、もうそれ以上空けまいとは思っていたのですが・・・・。すみませ(全くだ) 今回もかわらずイチルキでお届けです! ん?イチルキ?あんまり甘くないぞ? どっちかっつーと一護&ルキアですが!まぁ、それはそれで。 甘い二人も好みですが、こんな二人も大好きです。 ルキアは沢山一護に救われてると良いな! まぁ、そんな感じで「花見」な二人でした つか、夏には次、更新しないと!花見とか超季節ネタじゃん! 拍手ありがとうございました! 08.04.07 |
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