*ノワールSS。


















ヴヴヴッ、ヴヴヴッ、ヴヴヴッ。


制服のポケットに忍ばせていたケータイ電話が着信を知らせる為に振動を発したのは、授業の真っ最中であった。


薄い布越しから伝わってくる振動が何とも言えぬ刺激を肌へと与え、思わず走らせていたペンを止めルルーシュは眉間にシワを寄せる。




ヴヴヴッ、ヴヴヴッ……プツン。




きっかり五回コールの後に切られる電話。


それが何を意味するものなのか、ちゃんと理解しているルルーシュは諦めたの吐息と共にシャーペンを横に置いた。


すうぅ、と一度大きく息を吸い、



「うっ……!」

口許を手で覆い、机に突っ伏した。


「せ、先生!!」

ガタッ、と派手な音をたて椅子から立ち上がったのは、シャーリー・フィネットその人だった。


彼女はルルーシュからそう席が近いわけでもないというのに、いち早く彼の異変に気が付いて悲鳴にも似た声を上げ担任を呼んだ。


課せられた問題に取り組み、しん、と静寂に満ちていた教室内に突然響き渡ったシャーリーの声は、呼ばれた担任だけではなく他のクラスメート達の注意をも引き付けて、無数の視線が彼女へと注がれる。



「フェネット、今は授業中だぞ」


あからさまに嫌な表情を浮かばせながら叱咤する担任に、しかしそれどころではないシャーリーの耳には届かない。


「先生、ルルが!ルルが具合悪そうなんです!早く保健室へ連れて行かないとっ」


ハラハラ、と今にも駆け出してしまいそうな勢いで、シャーリーが叫んだ。

「なに?」


その言葉を受けて、それまでシャーリーに向けられていた眼差しが今度はルルーシュへと一気に移される。


もちろん、担任とクラスメートの視線だ。


「大丈夫か、ランペルージ」

背中を丸めうずくまったままぴくりとも動かないルルーシュの様子に驚きつつも、教壇から降りて近付きながら声をかける。



にやり、とルルーシュの唇が僅かに持ち上がる。

けれど当然の事ながら机に突っ伏していたままのルルーシュに、その浮かべた笑みに気付いた者はいない。

「すみません……急に気分が悪くなって」

ゆっくりと頭を上げるルルーシュはぎこちなく笑い答えた。

決して平気、だとは言わない。




「保健室、行って来い」

「……はい」

これ以上の授業は無理だろう。


そう判断し退室を進める担任に、口許を隠したままルルーシュは甘受するべく立ち上がる。

よろよろ、といかにも気分が優れないような危なげな足取りで歩き出す。

「おい。誰でもいい。ついてやれ」

途中、心配そうなシャーリーと目が合って、ルルーシュは安心させるように笑み、教室を出て行った。


ピシャ。


ドアを閉め廊下に出たルルーシュは保健室のある方へ足を進めつつ、完全に教室から自分の姿が見えなくなる場所まで行くと、すくっと姿勢を正す。


彼はポケットからケータイ電話を取り出して、素早く掛け直す。




プルルル……プルルッ



『ルルーシュ!』


ツーコールも終わらないうちに、焦りの含んだ兄の声が鼓膜に届く。

「今からそちらに向かいます。場所はドコですか?」

無駄な会話はしない。

連絡が寄越された時点でだいたいの状況は把握している。


クロヴィスの現在位置を聞き、二、三短い会話を交わした後、ルルーシュは電話を切る。

ケータイ電話を再びポケットに捻じ込んで、顔を上げる。


颯爽と歩く彼は、もはやルルーシュ・ランペルージの姿ではなかった。























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