拍手ありがとうございます。 ここでは短編をご紹介。 間があるといいかなあと思い、無駄に5頁もあります。 1頁にして欲しい方いらっしゃいましたら、ご報告下さい。 今日もまた、 夕日が沈む……。 その丘は、 彼女と昔よく遊んだ場所だった。 野原を駆け回り、 一本の巨木を猿のように登り、 そして遊び疲れると寝ころんだ。 話す内容は、 学校のことや、 友達のことや、 将来のこと。 僕はそんな、 他愛もない話が好きで、 彼女の隣で、 にやけそうな顔を引き締めるのに必死だった。 だから、 彼女がその話をするとき、 どんな顔をしているのかなんて、 全く気にも掛けなかった。 ねえ。 彼女が声を掛ける。 なに? 尋ねると彼女は俯いた。 とても辛そうな顔で、 今にも泣き出しそうな……。 つられて、 僕まで顔を歪める。 どうしたの、何かあったの。 君はますます辛そうな顔をする。 学校でいじめられたのか、 親とトラブルでもあったのか、 僕の頭の中は、 そればかりがぐるぐると渦巻いていた。 ……なんでもない。 ごめん、今日は先に帰るね。 そういって彼女は、 瞳に少し涙を浮かべたまま、 その場を後にした。 僕は丘に取り残されて、 1人呆然と彼女の後ろ姿を見ていた。 何が起こったのか判らなかった。 だから次の日、 お母さんからそのことを聞いた時は、 本当にびっくりした。 あの子、引っ越すんですってね。 自分の耳を疑った。 そんなばかな。 僕は何も聞いていない!! 僕は家を飛び出し、 あの丘まで走る。 坂を上りきると、 彼女とよく登った、 一本の巨木が目に入る。 その幹に、 何か白いモノが貼り付けられていた。 近寄って見てみると、 それは彼女の手紙だった。 ごめんなさい。 こんな形になってからしか、 伝えることができなくて。 僕は泣き出した。 彼女と僕は友達だった。 それ以上でも、以下でもないと思っていた。 けれどこの喪失感は、 この哀しみと淋しさは、 彼女にそれ以上を 見出していたからかもしれない。 涙は止まらなかった。 彼女は、 自分の居場所を告げなかった。 僕らはもう会えないのだろうか。 お母さんも行方を知らず、 彼女の隣家の人に尋ねても、 首を横に振るだけだった。 僕はそれから、 幾度も恋をして、 彼女以外の子と付き合い、 また別れを繰り返す。 けれど変わらず、 この丘へやってくる。 月に一度。 彼女と別れた日に。 あの頃、 僕らが夕日が沈むとともに、 家へ帰ったように、 僕は重い腰をあげた。 またいつか、 君に逢えることを祈りながら。 ==おわり== |
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