拍手、ありがとうございます〜。
ささやかな物ですが、お礼を受け取って下さりませ〜v
待たせてしまいましたが、やっと三話更新です!
拍手お礼SS 『鬼畜様16分の1シリーズ3』
そうして、実際のサイズより16分の1になったもう一人の自分との
奇妙な同居生活が始まった。
最初の十日間はあっという間に過ぎ去り…その頃には克哉もどうにか…
この生活に慣れてきたようだった。
今日も無事に仕事を終えて、自分のアパートの方へと帰宅していく。
自室だけは、もう一人の自分がいるので…明かりが灯ったままになっていた。
それを見て…少しだけ暖かな気持ちになる。
(一人暮らししている間は意識しなかったけれど、明かりがついている部屋に
帰っていくのって…悪くない気分だな…)
一人でいた頃は、暗い部屋に戻るのが当たり前だったから気にしていなかったが
明かりがついた部屋は、誰かが中で待っていてくれている証のようなものだった。
少しだけ気分を弾ませて、部屋の扉を開いていった。
もう一人の自分は、克哉が外出中は…克哉のベッドを拠点に活動している。
シーツの上には彼が愛読しているビジネス関連書や、今日来たばかりの新聞。
それと眼鏡が疲れたらすぐ横になれるように肌触りの良いタオルが枕のすぐ
近くに設置されていた。
これもまた…すでに馴染みになった光景であった。
「ただいま〜俺。今日は…美味しいソーセージを買ってきたよ。今…お前の
分の夕食を用意するから、ちょっと待っててな」
「ふん…遅かったな。待ちくたびれたぞ。が…お前がいない間も一応読書に
いそしんでいたから…無駄には過ごしていなかったがな…」
「はいはい。けど…良くその身体のサイズで、本を読んだり出来るよな。
ちょっと感心するよ…」
「それは気合と慣れだ。こんな成りをしているからと言って…無為な時間を
過ごす気など俺にはないからな…」
「はいはい。そういう処は立派だと思うよ。じゃあ…すぐにご飯を用意
していくね…」
そう言いながら台所に立つと、早速もう一人の自分が食べやすいように…
ソーセージと茹でた小松菜を丁寧に細かく刻んでいく。
そして人形用の小さな食器セットのお茶碗とお椀の中にスプーンで
ごく少量の白米と味噌汁を入れていった。
最初の頃は用意すると「俺が食べるには大きすぎる!」とか色々と文句を言われて
いたが…最近では克哉も慣れたものでスイスイと用意するようになっていった。
(最初は苦労したけど…慣れれば何て事ないし。それに食費は殆ど掛からないに
等しいもんな…)
そう、ミニマムサイズになったもう一人の自分用の食事量は…ごく少量で済むので
ほんの少し余分に用意すれば十分に一日分は間に合ってしまうのだ。
ただ、味噌汁と白米はすぐに用意して出してやらないと…すぐに冷めてしまうのだけは
難点ではあったけれど…。
それをベッドの横のサイドテーブルまで運び、彼用に設置した…人形サイズの食卓セットの
上に並べていくと…もう一人の自分に声掛けていった。
「はい、用意出来たよ。…さあ召し上がれ」
克哉がそう告げると同時に、ベッドからもう一人の自分は…器用に身体を移動させて
ベッドから、サイドテーブルの方へと飛び移っていった。
「ん、今日は早かったな。それでは…頂こうか」
そういって、先に眼鏡の方は食事を食べ始めていくと…克哉は今度は自分の分の
夕食準備に取り掛かっていく。
克哉の分の夕食は、彼に比べて量がある為に…少し遅れてしまうし、身体が小さい為に
燃費が悪くてすぐお腹を空かせてしまう彼をあまり待たせるのは申し訳ないので…
いつの間にかこういう流れが当たり前になっていた。
克哉は自分用のご飯のおかずに、塩ジャケを焼いて…総菜屋で買ってきた鶏肉と玉ねぎ、
細切りニンジンが入った炒め物を電子レンジであっためていく。
チラリ…と眼鏡の方を見ていくと、つい克哉は微笑ましい気持ちになってしまった。
(ヤバイ…やっぱり凄い可愛いよな…)
身体のサイズが随分と小さくなってしまったからだろうか。
以前に自分と同じ大きさで対面した時とは、印象が随分と可愛くなってしまっていた。
小さな身体と手で、人形用の小さな箸を握って…ご飯を食べる様子は…見ているだけで
ほのぼのした気分になってしまう。
…恐らくそんな事を面向かって言えば、絶対に彼はヘソを曲げてしまうから…そんな
事は絶対に口に出来なかったけれど。
「…どうした、<オレ>。人を見てどうして笑っているんだ…?」
しかし、可愛くてついジっと見てしまったせいで…今回は相手に視線に気づかれて
しまってギク、と克哉は固まっていく。
一瞬動揺したが…どうにかそれを顔にあまり出さないようにして…当たり障りのない
話題を口にしていく。
「…いや、お前のおかず…それだけでご飯食べるのに足りるかな〜と…少し気になって
しまって。ソーセージだけだと…一杯食べるのにはちょっと…と思って…」
「ん、そうだな…バランスは取れているかもだが…言われてみれば少し足りない気がするな。
…という訳で、お前の野菜炒めを少し寄越せ。結構良い匂いしているからな…」
「ん、良いよ。それじゃあ…暖め終わったらお前の分を刻んで渡すよ…」
「あぁ、頼む。これだけでは少々足りないからな…」
そうして、克哉は野菜炒めが暖め終わるとスプーンで…彼が食べるのに丁度良い
量だけ掬っていって、それをまな板の上で軽く刻み始めていく。
小さな平らな皿の上にそれを移していくと…そっと彼の食卓の上に乗せていった。
「はい…どうぞ、<俺>」
「悪いな…頂こう」
「良いよ、気にしないで。んじゃ…オレもそろそろご飯にしようかなっと…」
そうして、お盆の上に自分の分のおかずや…ご飯、味噌汁の類を乗せて透明な
ガラス机の上に運んでいくと…克哉も夕食を食べ初めていく。
「頂きます…」
そうして、身体のサイズこそ違うが…一緒に二人で食卓を囲んでいく。
(…最初はコイツと一緒に生活なんて本当に出来るのかなって不安もあったけれど…
こうやって…二人で食べるのも悪くないよな…)
それは、大学時代から一人暮らしをしていたからこそ…麻痺していた事でもあった。
一人で食べる事は克哉にとってはいつしか当然の事になっていて寂しいとも思わなかったが
もう一人の自分と一緒に食べるようになって、それは暖かな事だと思い出していった。
黙々と克哉も、眼鏡もご飯を食べ進めて…その間は、特に会話も何もなかったけれど…。
誰かがいる、という喜びがジンワリと…克哉の胸を暖かく満たしていったのだった―。
<不定期につづきます>
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