~ドラゴンクエスト8〜






 「エイト、ミーティアね・・・できたみたいなの」




 トロデーン王の執務室にて、エイト国王陛下は書類に目を通している。
 エイト国王陛下が即位して既に5年が経った。
 れっきとしたサザンビーク王族の血を引き、トロデーン前トロデ陛下の一粒種の永きにわたる想い人。
 貴族も民も他国の有識者達など誰もが認める国王で人をまとめる才能は素晴らしいのだが、経験の薄さはやはり否めなかった。
 しかし、それはいまや過去。
 当初は、度々助け舟を出していたトロデ前陛下も今では、ほとんどエイト陛下の手腕に任せている。
 エイトが城にやってきた頃には既に職についていた大臣も最近ではハラハラすることも減ってきたようである。
 たった5年での執務のこなしように、トロデ前陛下及び大臣は正直、舌を巻いていた。



 「・・・できた、ってなにが?」
 もっとも、他の誰が認めようと本人は未だに全てに必死にならざるを得なく、執務中であったがために愛するミーティア王妃の言葉も上の空で聞いていた。
 他の誰が立派な王だと褒め称えようと、ミーティアはエイトのことを一番分かっている。
 そう、今この話をしても上の空で最初はまともに取り合ってくれないことも分かっていて、今話した。
 執務が終了する夜まで待っていられなかったから。



 エイトの隣に控える大臣は既にピンと来ているようで、目をうるうるさせている。
 それでも書類から眼を離すことをしないエイトに、ミーティアと大臣は顔を見合わせてくすくすと楽しそうに笑った。



 「エイトとミーティアの赤ちゃんができたみたいなのです。」



 「・・・ふ~ん・・・・って、え~~~!?」
 最初は気のないような返事をしていたエイトも、途中でその重大さに気がついたようで、珍しく大きな声を上げて思わず勢いよく立ち上がった。
 彼はつねに冷静沈着で、戦闘中での指示以外で大きな声を出すことは、数年に一度あるかないかだ。
 かれこれ15年余りの付き合いであるミーティアでさえ数回見たことがある程度である。


 「・・・エイト陛下、ミーティア王妃、おめでとうございます。」
 大臣はうれし涙が抑えられないようで、目頭を硬く押さえながら言わねばならぬ一言だけ発し、あとは声もなく、むせび泣いている。


 「ミーティア、本当に?」
 「こんなこと冗談でも嘘は言いませんわ。」
 それもそうだと納得したエイトは、今度は夢のような気がしてミーティアにお願いをする。
 「オレの頬をつねってくれる?夢じゃないと信じたいんだよ。」
 「世界を救った勇者であるエイトの頬は、ミーティア程度の力でつねったところで痛くもかゆくもないですわ。間違いなく、これは現実なのよ、エイト。」
 ミーティアは、くすくすと笑いが止まらない。
 己の父がそうであったように、己の夫も親ばかになるのだろうかと、心密かに心配になるのであった。








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