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眠れない夜


――眠れない。
その夜、幾度目かの寝返りを打った後、柊京一郎はふぅ、とため息を吐いて目を開ける。
瞳に映るのは、暗闇に覆われた天井。
風の音も雨の音も聞こえない、静かな静かな夜。
暑くも寒くもない程良い気温で、体のどこかが痛むこともない。
それなのに今夜は、何故か眠れない。
――理由は何となく見当がつくから、理由を考えるのはおかしなことかもしれないな。
心の中で一人ごちると、青年は目を開けたまま体の向きを変える。
暗闇に目が慣れてきたのは、その瞳に窓を覆うカァテンが映るが、しかしそれが動く気配はない。
――揺れるカァテンを眺めていれば、そのうち眠気が訪れてくれるだろうか。
そんなことを考えるけれど起き上がる気になれず、彼は再び息を吐くと目を閉じる。
眠れない原因、それは一つしか思いつかない。
明日は、恋人が約束をしてくれた日だから。
天司様の懐刀と呼ばれる年上の恋人は、多忙な日々を送っており、顔を見るどころか声を聞くことすらままならない。
そんな彼が、時間を割いて自分に会いに来ると約束してくれたのだ、言葉にならぬほどの歓喜に見舞われるのは当然のこと。
約束の時間は明日の夜だというのに、今から心が逸って眠れないのだ。
久し振りに会う恋人に寝不足で酷い顔を見せてはいけない、だから早く寝なければ、と考えているのに、明日という日のことを考えれば考えるほど、どんどん眠気は遠ざかるばかり。
いっそ今夜は眠るのを諦めて、明日の昼間に昼寝をすべきだろうか。
幸いなことに明日は土曜で学校は休み。
だから恋人の訪問までまだ時間があるのだから、と自分自身に言い聞かせ、またしても体の向きを変える。
眠くなくとも、ひとまず目を閉じているだけで体の疲れが取れるはずだと考えながら。
――もう一度、明日の予定を復習しよう。
目を閉じたまま、京一郎は脳内で何度も繰り返した明日の予定を、思い浮かべる。
これもまた寝台に横たわってから何度も繰り返したことだが、それ以外に考えることが思いつかないのだ。
――ええと、まずは……。
朝はいつもの時間に起床して、日課の素振りをこなしてから朝食にする。
午前中に家中を隅々まで綺麗にして、午後は買い物へ行こう。
茶請けに恋人の好む甘味を買って、甘味に合う茶も選ばなければならない。
――甘味は、何が良いかな。
季節はそろそろ初夏に足を踏み入れた頃、見た目も味も爽やかな甘味が良いだろうか。
それとも疲れを落とすために、甘さをたっぷりと味わえる菓子が良いだろうか。
茶は、冷やしておいた方が良いかもしれない。
とても甘い菓子で口の中を満たしてから、冷たい茶でさっぱりすれば、疲れが落ちるだろうか。
――冷たい茶、となると氷も買ってこなければならないな。
買い物から帰ってきたら、来客用の食器を棚から取り出しておく。
それから居間を明るくするために、庭から花を摘んできて飾るのも良いだろう。
今朝はルドベキアの花が綺麗に咲いていたから、あれを摘むのが良いだろうか。
そうすると、花を入れるための花瓶が必要となるから、午前中に掃除をしながら花瓶を取り出しておく必要がある。
――花の色が映えるように、花瓶は白いものにしよう。
夕食は先に済ませておくように、と告げられているから、部屋を汚さないよう醤油煎餅だけの簡単な食事で良いだろう。
準備が整ったら、後は恋人の到着を待つのみ。
風呂も沸かしておこうかな、と考えていると、次第に頭が、体が重くなってくるが、青年がその変化に気付くことはない。
――喜んで下さるといいな。
大切な恋人が、自分のもてなしで喜んでくれる、寛いでくれることが、京一郎にとって何より幸せなこと。
明日もそんな幸せな気分を味わえると良いなー頭の片隅で祈っているうちに、青年の意識は遠ざかっていく。
やがて彼の寝室には、静かな寝息に満たされたのだった。



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