「…何をしている」
「え?何って拍手」

はぁ、と大袈裟にため息をつくと彼らしくもなくのろのろと下足箱から靴を取り出した。どうやら驚き呆れた様子で一喝する気も失せたらしい。ぼす、と大層な音を立てて彼のそれはそれは大きい(私の革靴も入るんじゃないかってくらい)靴が砂埃を上げた。よくもそんなサイズがあったもんだとからかったこともあったっけ。

「いつも頑張ってる真田に激励の拍手」
「…馬鹿馬鹿しい」
「なんだよう」

昇降口を出るとむわっとした暑い空気が肌を撫ぜる。そういえばこの間の社会科の時間で日本は温帯ではなく亜熱帯であると豪語していたことを思い出す。とにかくも湿度を含んだ風は撫ぜるどころか腕や足に絡んで鬱陶しかった。

「何さ、1時間あそこで待ってたのに」
「戯け。本当は何分だ」
「5分」
「全くもって安っぽい激励だな」
「ちょっと位感動とか無いの?」
「無い」

少し歩いただけなのにお互いの顎にはもう汗が流れてきた。髪が張り付くのを疎ましそうに払う真田。何だよ、格好良いじゃないか!

「大体な、拍手の仕方がなっとらんのだ」
「何だ其れ」
「良い音が出る叩き方というのがある」
「良いんだよ。気持ちが篭ってれば」
「5分のか?」
「ぬぅ…」

結局一緒に帰って序に告白しちゃえという私の密かな目論見は真田の拍手講座によって何処かへ追い遣られてしまった。今日こそはと意気込んでいたはずの覇気はしゅるしゅると萎んで変わりに残ったのは手の赤みくらい。あゞ、本当に1時間待ってたのが馬鹿みたいだよ。5分ぽっちでこんなに汗をかくほど新陳代謝は良くないんだからな!いい加減気付けよ、馬鹿真田!でもやっぱりそんなアンタが好きなんだよ!!

拍手ありがとうございました。
お礼は一話のみです。



何かありましたらお気軽にどうぞ。(拍手のみでも送れます)

あと1000文字。