Sample~Simple~ 小噺 “その”後 「なあセンパイ、ずっと気になってたんだけどさ」 「ん?」 「球技大会の時、どうやって里居さんを空振りにさせたんだ?」 「……あいつもお前もだけど、かなり目が良いだろ? 動体視力」 「――? まあ、そうかも。それで?」 「ボールに回転かけずに投げたんだよ、無回転だな」 「ナックル?」 「あんな距離で変化するのは望んで無かったけどな。 でも、高目にくると思って振れば、あら不思議。途中で失速したボールの上を叩く」 「それで、ピーゴロになったり、空振りになったりしたわけか……ふーん」 「なんだよ、不満そうだな」 「聞いてみたら、普通の話だな、って」 「―――うっせ」 言って、疾駆する速度を上げる。 「あー、なんでこんな日に寝坊したんだろ、あたしの馬鹿。 命の出番に間に合うかな……」 「善処するよ、っつかまだあの子と仲良いのかよ?」 「とーぜん、親友ですから」 「…………」 「なに、駄目なのか?」 「いや、別にそんなんじゃないけど――」 だけど、十三命。 あの女が纏う気配は―――― 「アホくさ」 「はあ!? なんだそりゃ、おいセンパイ。なんだよいきなり」 「うっさい、舌噛むぞ」 勝手にしろ、何で俺がお前の心配をしないといけないんだか。 やっとの思いで関西圏に入ると、さらに速度を上げて突き進む。 “――――――” 「――――ッ!?」 「ん、今度はどうした?」 「……今、なんか言ったか?」 「いや、なんにも」 「そっか」 確かに聞こえた、蟲の羽音めいた雑音。 どこかで聞いたことのある、不協和音。 数年前、あの町で、あの世界で――。 喚く鼓動が煩くて、俺はバイクのエンジン音に耳を傾ける。 「まあ、あの子のことなんて俺には関係ないしな」 そう、関係ない。 藍原蘭には無関係。 しかし、彼女…… 「うわ、まずいって、このヤローー!」 寝坊し、急いで大会へと向かう十三命にとって。 それはまさしく人生を出来事であり、“彼等”にとっても、一つの、人生の分岐点であったことだけは確かであり―― “Also Töten Zarathustra” 鎮座する玉座の主が、真に腰を上げた瞬間であった。 |
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