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「ゆるやかに溶ける夏―夏色坂道―」(平次+和葉)
「あーもー、そんなに早いこといかんといてえな平次!」
「文句言うてる暇あったらはよ漕げ!」
汗水垂らして砂利道を二人自転車で駆け昇っていく。
事件の捜査で片田舎に来たものの、肝心のバイクがパンクしてしまった。
パンクした近くにたたずむ茅葺屋根の主人から、厚意で自転車を借り、
依頼主との待ち合わせ場所まで急いでペダルを漕ぐ。
田舎特有の涼しげな風と、都会のビルのように遮られない日光が二人を包む。
「いつも電車やバイクなのが祟ったな……」
意外と早く息が上がり、平次がつぶやく。
体力はあるほうだと自負しているが、自転車で使う筋肉はいつもと違うところらしい。
一方隣で彼よりも呼吸を繰り返す和葉も、同じくそうなのだろう。
「久しぶりに、しかもこんなきれいな田園風景で自転車漕ぐのはいいけれど、
もっと優雅に漕ぎたかったー」
「それはお前が今日着ていく服なんぞに迷ってたからやろ。何着ても一緒やゆうに」
「なっ……そら一緒かもしれんけど、心の持ちようの問題なんやー!」
坂道のせいで火照った顔を隣の平次に向け反論する。
平次もいつものように、更にからかおうと顔を横に向ける。
が、少しの間をおいてから正面に戻した。
そしてペダルをこぐ力を強めた。
「ちょ、平次! あんた私が女やってこと忘れてへんか!?」
「おーおー、そうやったなあー」
そうは言いつつ、平次は力を弱めなかった。
というより、彼女の横を走れなくなった。
まさか、汗を流して必死に坂道を駆ける彼女の首元に、目が行ってしまったなんて。
しかも、綺麗だなんて思ってしまったなんて。
end
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