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店に引きずり込んだのはこっちだけど、勝手に飲み始めたのは、土方のほうだ。まあ、こんな場所なんか飲まなきゃ居てられないだろうし、俺だって飲んでないと頭おかしくなりそうだったからいいんだ。

「口紅落ちてっぞ」
「髪ぼっさぼさですよイケメンが」
「ああ、そりゃ光栄だ」

朝が顔を覗かせ始めている店頭で、うんと伸びをして、土方は大きくあくびをした。そのついでみたいに、ツインテールのついたままの頭を軽くなでて、犬や猫を相手するみたいに笑った。
暖簾を急いで片づけて、店の奥にいる西郷に大声で告げる。

「おい、俺もう帰るからな!」
「ちょっとパー子、片づけ!」
「酔いつぶれてるやつ片づけるんだよ、じゃあな!」

返事を聞かずに戸を勢いよく閉めて、土方のほうを振り返る。街頭はもうついておらず薄明るい通りは、同じように朝帰りの腑抜けた面の奴ばかりが通って行く。

「……酔いつぶれてねーけど」
「言葉の、綾だよ」

歩き出せば、土方も黙ってついてくる。そもそも何の意図があって、あんな化け物ばっかりの店に入ってきたんだか。逃げ出そうと思えばいくらでもできんだろ、こいつなら。
明け方の空気は歓楽街の中でも澄んで、酒とたばこに焼けた肺に静かにしみた。深々息を吸えば、不意に後ろから手を引かれた。

「なん、」

路地裏に引き込まれて、土方の影に隠されるようにキスを落とされた。舌が軽く唇を舐めた。それに対して軽く頭を掴んで、唇を押し返した。

「……口紅ついてなくてよかったろ?」
「お前こそ、髪が整ってなくてよかったな?」

け、っとお互い顔をそらして笑った。結局のところ、どこで何してどんな恰好してようが、こんなことで笑えちまうんだな。






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