教室の片隅でキスをした。
抱きしめてキスをして、抱きしめられてキスされて。与えて奪って、与えられては奪われる。
とにかく夢中だった。心臓はうるさいぐらい早鐘を打っているし、呼吸は困難。酸素が足りていないせいで、きっと血はどろどろで、脳みそは溶けているに違いない。
「っ、は、ない」
キスの合間に名前を呼ぶと、文貴、と甘い響きが返ってくる。自分のことは頑なに名を呼ばせようとしないのに、ずるい。ずるいずるいずるい、でも、うれしい、やっぱりすき。
とろとろ、とろとろ。とろけてゆくのは、思考か、身体か。
もしかしたら、この世界そのものかもしれない。
「す、き」
目を開ける。お互いの息を正に食べあう距離に、ぞくぞくするような表情をした花井がいる。
目を凝らす。もっと、より鮮明に君を見ていたいのに、外の世界がそれを許してはくれない。
オレンジ色をしていた教室は、まるでオレたちを隠すみたいに、藍色に染まってゆく。
そして多分、オレたちを引き裂くために、ベルが鳴るのだ。
「なに、考えてる?」
訊かれたので答えようと口を開いたのに、花井の唇で塞がれてしまった。深い口付け。まるで嫉妬みたいだ。名残惜しげに離れてゆく花井の気持ちが何だか可笑しくて、堪えきれずに笑った。
ばつの悪そうな顔をした花井もすきだ。だいすきだ。
「離れたくないって、思ってた」
今度はオレが答えを聞く前に、花井の唇を奪ってしまう。ゆっくりゆっくり離れていったオレを見て、やっぱり花井も可笑しそうに笑った。
そんなオレたちの空気を読んでくれたのかどうかは知らないが、まだもう少しの間、ベルは鳴らないでいてくれるらしい。
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