潮の香りが、風に乗ってきた。それを感じながら暫く進んでいると、沖縄の碧く澄んだ海が見えてきた。
ジョエルは、車椅子を押している小夜へ止まるように言った。海を見たいから、と。
「驚かせてしまったかな?」
「・・・はい、少し。でも、会えて嬉しいです」
そう言って笑った小夜を、ジョエルは満足気な表情で見た。
小夜に会いにオモロを訪ねたが、不在だった。カイに聞いた所、小夜は部活だと言った。
オモロで待つようにという誘いを丁重に断り、デビットを呼び学校まで案内してもらった。デビットと別れた
後、学校のグランドを少し離れた所から見ていた。その理由は勿論、小夜が学校で生き生きしている姿を見て
みたかったということに他ならない。
助走を踏み、宙で身体を反らせバーを軽やかに越えている場面を見た時は思わず嘆息した。クッションの上に
着地した小夜と目が合うと、ジョエルは自然と頬笑んでいた。一方の小夜は、目を見開きジョエルをまじまじ
と眺めていた。突然学校に来て小夜を驚かせたいというちょっとした悪戯心があったので、ジョエルはその反
応が嬉しかった。
「学校生活、楽しんでるみたいだね」
「はい」
「そうか、良かった」
潮風が、ジョエルの頬を優しく撫でた。
小夜が普通の女の子として学校で生活をしている姿を、?ジョエル?を襲名した時には想像できなかった。
休眠期間のある彼女にはその時間は限られているが、それを幸せと感じられるならそれで良い。
「小夜にとっては僕の行動は突拍子に思えたのだろうけれど、君とこうしてただ歩いてみたかったんだ。それだ
けの理由で君に会いに来たのは、迷惑だっただろうか?」
小夜と共に戦うようになって、その思いは芽生えた。それは、ジョエルにとって長い間会えなかった親族に再会
した時に抱く思慕の感情に似ていた。日記を通してしか知らなかった、小夜という少女。自分の先祖が関りあっ
てきたこの少女と、触れ合ってみたいという思いが心のどこかにずっとあったのかもしれない。戦いが終った今、
それが可能となった。
ジョエルの呟きに、小夜は照れ臭そうに笑った。そして、首を左右に振る。
「ありがとうございます」




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長官と小夜です。

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