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焔の矛先






俺は戦慄を覚えていた。

小さな子供の躰に不似合いな長槍を軽々と構え、自分の周りに次々と屍の山を築いていく、その背中に。











槍の間合いに入ったら、あっという間に餌食になってしまうと確信していたのに、佐助は忍んでいた木の影からフラりと足を踏み出し、夜虫が炎の光に吸い寄せられる様に、その子供の前に姿を現した。

ビュと槍が空気を切る音がしたかと思うと、気配だけを感じて振るわれたその鋒が喉元でピタリと止まる。

切り伏せ様と振り下ろした刃先を寸止めするのは神業にも等しい。

一筋も傷を付けず止まった目の前の血潮に濡れた白銀の輝きに、又も背筋を這い上がる快感に似た戦慄を感じ、佐助は口角を引き上げた。

濡れた様に光を放つ炎の様に紅い瞳が、不謹慎に笑う佐助を下から睨め付ける。

「忍隊の者か……」

「幸村様。猿飛佐助でこざいます。お見知りおきを…」

視線を外さないまま、スッと引いた鋒を振るい、血潮を払うと、突き放す様に言い放った。

「某の間合いに入るな…次は刺し殺すぞ…行け」

硬質な口調だが、緊張や焦り、戦いの興奮が微塵も伺えない声で言われ、佐助は久々に自身の血が沸くのを感じた。

「御意」

恭しく平伏すると下知に従い、その場から瞬時に消え失せた。

暫くその場に佇み考えに耽って居たが双槍を構え直すと幸村も戦場に戻った。

既に武将としての頭角を表し、近隣諸国にまで名が轟く幸村は元服を済ませたばかりの齢十二歳だった。
戦いぶりも去ることながら、闘神もかくやと思わせる采配を奮い、その小さな姿は戦場では畏れられていた。

真田忍隊に組みした佐助は聞き及んで居たにも関わらず、その姿に心を鷲掴みにされ瞬く間に奪われた。

戦場で無かったら、舞を舞っているかと思う様に振るわれる槍の優雅な軌跡に目を奪われ、見惚れた。

若干十二歳とは思えない程の天武の才と器量に恵まれ、幸村は闘神の加護を一身に受けていた。
影に紛れ自分も難なく働きながら、その姿を目で追う。

これから主となる子供の戦いぶりを初めて目にして、佐助は柄にも無く興奮を抑えるのに苦労した。

その口元に楽し気な笑みが浮かぶ。

「いや~楽しいねぇ」

ボソリと呟いた独り言を、聞き咎めた同じ真田忍隊の霧隠才蔵が不快気に眉を潜めた。

佐助はもう一度その姿を瞳に焼き付けると、満面の笑みを浮かべた。
これから楽しくなりそうな予感を感じながら。





▼▼焔の矛先・弐▼▼



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