−自分勝手な恋人−
「ねぇ…ギルベルトはうちに何しに来たの?」
「何って。可愛い弟の恋路のために気ぃ使ってやってんじゃん」
「…僕のためにその気を遣おうとは思わないわけ?」
「はぁ?何でお前なんかのために」
恋人のあんまりな言い方に僕は思わず顔を引きつらせた。
いつものことだけど。
いつものことながらあんまりである。
「僕は仕事してんのに。勝手に来て勝手にくつろいでるし」
「だって住んでたから」
「いや、そうだけどね?」
こっちは朝から忙しかった。
連絡ミス訂正をしたり、書類を作ったり、同志に指示を出したり。
なのに一息入れに広間へ来たら彼がいるではないか。
来たなら僕に一言言ってくれたっていいのに。
彼の自分勝手な性格にはほとほと困る。
「お前仕事忙しいんだろ?お構いなく」
「そうじゃないでしょ!いるなら手伝ってくれたっていいじゃん!」
「ヤだよ。だって俺もうそういう事してないし」
「僕だって君がいるのに僕だけ仕事なんて絶対嫌だ!」
僕はそう言いながら彼のお茶を奪ってごくごくと飲み干した。
机の上にあったクッキーにも少し手を伸ばす。
「お前相変わらず餓鬼だな…」
「君に言われたくないね」
そうしてキャンディとチョコレートをポケット一杯に詰めるのだ。
最後に彼を抱え上げれば準備万端。
彼はさっとビスケットの缶を握りしめていた。
「何もしないからな」
「いいよ、諦めてる。ギルベルトが傍にいてくれればそれでいい」
「夕飯ボルシチな?サワークリームたっぷりで」
「デザートは君なんだから」
「んっ…」
そう言いながら軽く唇を重ね合わせて戯れる。
自分勝手で気ままな彼。
だけど僕はそんな彼が大好きでどうしようもない。
「やべ。ビスケットだけ食べてると喉詰まる」
「…‥ナターリヤにお茶持ってきてもらうから待ってて」
1人でやるよりも遙かに遅れの出る仕事の進み具合。
しかし彼といるだけで、それも苦にならないのだから僕は本当に末期なのだ。
2009 @ろんじん
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