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おまけ小説は恋修です
全部で四種類あります



あいつは、俺のことなんて、ちっとも見てはいないのだ、と檜佐木修兵は常日頃から思っていた。
こちらがどんなに意識したところで、あいつにとって俺はどんなによくてもセンパイ止まりなのだ。
同性である男で、強面で、背も体重も自分とほとんど変わりもしない相手を、恋愛という意味で好きになるほど、あいつはモテないわけではない。仮にモテていないにせよ、阿散井の心の中にはすでに誰かが住んでいることを檜佐木は知っていた。
その相手に勝とうだなんて思ってはいない。心の中に住み着いて離れない人がいる状態を、自分にも、その相手に持つ感情が憧れという点では阿散井と少し違うが、経験がある檜佐木はよく知っていた。
だから、自分は多くを求めない。檜佐木はただ阿散井の傍にいられれば、それだけで幸せなのだと自分を戒めてきた。
それでも、やはりたまには、阿散井の好意を受けたい願望が出てくるのは、恋をしている以上仕方のないことではないだろうか。
阿散井が、欲しい。その目をこちらに向けさせて、その声を自分の為に発して欲しい、自分だけのためにある、阿散井の行動が欲しい。
檜佐木はただ、願うだけだった。そう、ずっと。

いつも通りの、否、いつもと少し違う夕方だった。太陽はいつもよりも大きく、赤く、あたりを赤一色に染めていた。
檜佐木は珍しく定時に仕事を終えて、さて帰るか、誰かを誘って飲むか、と考えていた。
その時だった、自分の、少し前を赤い長髪が歩いているのを見つけたのは。
檜佐木の胸は急に現れた相手に驚きと、恋する者特有のときめきに跳ねて、静かにならなくなった。
それでも、そこはセンパイとして、男として、そんなところを相手には見せまいと、深呼吸して心を落ち着け、ゆっくりとけれど追いつくように、阿散井らしき後ろ姿を追った。
たいていの場合結ばれている髪の毛は、今日は後ろに綺麗に広がっている。それに違和感を覚えないでもないが、流されたままの髪も檜佐木は好きだった。
何分かして自然に追いついた風を装って、檜佐木は阿散井の背を叩いた。
「よぉ、阿散井。お前、今帰りか? 珍しいな、こんな早いなんてよ」
「へ? あっ、檜佐木副隊長! お疲れさまです!」
「え?」
阿散井らしき相手から出た、知らない声と驚いた口調に檜佐木は目を丸めた。
見れば綺麗な白髪の男が、その髪を夕日に染めて立っていた。綺麗な深紅はよくよく見れば、全く阿散井のものとは比べものにならない色の弱さで、遠くからとはいえ、見違えた自分が恥ずかしい。
その上、霊圧でも気づかずに、普通に声をかけてしまったことに、自分でも呆れてしまう。
「あー……」
「何やってんすか、アンタは。行きますよ」
どうしようかと開いた口は次の瞬間、驚きにさらに大きく開かれる。
いきなり首に腕を回されて無理矢理に自分を連行しようとしているのが、先ほどから脳裏に描いてやまない阿散井だったからだ。
腕の感覚はしっかりと。そこから伝わる体温も本物。唇から紡がれる呆れた声とため息も、阿散井のもの。
どうして間違えてしまったのだろうかと思うくらい、すべてが先ほどの隊士とは違った。
「悪ぃ、阿散井。助かった。うっかりお前と間違えちまってよぉ…」
「あんな情けない面と言葉、下のもんに見せねぇでくださいよ、檜佐木センパイ。ったく、アンタときたら…」
首に腕を回したまま、ずんずん歩いていく阿散井に、さすがに苦しくなってきて、檜佐木は足を止めた。自然と阿散井の足も止まる。
「次からは気をつける。それより、お前、今日暇? よかったら飲みに行かねぇ?」
聞けば阿散井は呆れた顔をして頭を垂らしてため息を一つ。
「いいっすけど、それいう為だけに、あんなに遠くから俺だと思った奴を追いかけてたんすか?アンタって本当に…」
「ちょっ! 待った! お前どこから見てたわけ!?」
檜佐木は慌てて声を張り上げた。どこから見てたなんて、聞くまでもない。
「最初っから、全部見てましたよ。アンタがあの隊士見つけてフラフラついてくとっから。アンタ本当、俺のこと好きっすねぇ。ちょっと似てるだけで、全部俺だと思うくらい」
阿散井が口角を持ち上げて、意地の悪い表情で紡いだ言葉に、檜佐木は図星をつかれて、顔を赤く染めた。消えかけている夕日に染まるよりも、もっと、赤く。
「えっ……?」
その檜佐木の反応に、今度は阿散井が赤くなる。檜佐木は目を丸めた。

なぁ、阿散井。俺も少しは好かれてるって、思ってもいいか?


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