収穫祭

「良いかみんな、神様にしっかりとお礼を述べるんだ」
青い衣装をまとった女性を先頭に、厳かな一段が森へと入っていく。
季節は秋。馬が肥えるといわれるほどの季節だ。私も気をつけなければいけないだろう。
「まぁ、死んでしまえば体重なんて関係ないけどな」
死んでは蘇り、蘇っては死ぬ。痛みを忘れ、生を忘れる蓬莱の薬。
それを服用してしまった瞬間、私は人間の枠から外れてしまった。
妖怪になったわけでもなく、妖精になったわけでもなく、ただ人間でなくなっただけ。
「神様か……」
そんなものがいるのだろうか?
いや、祟り神とか、土着神とか――ちょっと考えただけで、沢山出てきてしまったけど。
「いてもいなくても、一緒だよな」
神様がいるから、変わるわけじゃない。
神様がいるだけで、何か変化があるわけがない。
それに、本当に神様って呼べる奴がいるんなら、見てみたい。この私を殺せる奴がいるんだなら、出会ってみたい。
「……所詮は妄想か」
神様がいても変わらない。なら、自分自身で変えていくしかない。
神様がいるだけでは変われない。それなら、自分自身で変えていくしかない。
「こら、サボるなよ。妹紅、お前もお参りに参加しろ」
見つかったか。まったく、慧音は真面目だよな。
1人ぐらい参加しなくても、変わらないだろ?
「少しは社交性を身に着けようとは思わないのか?」
「社交性? 私にそんなの必要ないだろ」
死なない体。死ねない体。
常識から逸脱した者は、受け入れられない。
村に近づけば怖がられるしな。今日だって隠れているだけだぞ?
「良いか、妹紅。人は知らない物に恐怖を抱くんだ」
それは、そうだろう。
分からない物はそれだけで怖いし、未知の物には恐怖を抱く。
私でも怖いものは怖いし、死んでしまう普通の人間は私以上に怖いのだろう。
「実際の危険なんて確かめないうちに、恐怖を抱く。何も確認していないうちに、怖いものだと決め付けてしまう」
君子危うきに近寄らず……だっけ?
わざわざ渦中に飛び込むような奴はいないだろ?
そもそも、そんな奴なら怖いなんて思わないんじゃないのか?
「でも、な。逆に言えば、良く知っていて、仲さえ良ければ怖くないんだ」
「はぁ? なんだ、そりゃ」
仲が良ければ怖くない?
危険なものは危険なままで、仲良くなれば無害になるわけじゃないだろ?
「ふふっ、分からないって顔してるな。妹紅、お前だって知っているはずだぞ?」
私が知っている?
……だめだ、慧音が何を言いたいのか全然分からない。
まったく、自分が頭良いからって、私をいじめるのは止めてくれ。
「妹紅、私が怖いか?」
「は? 何で私が慧音を怖がらないといけないんだ?」
こんな私と仲良くしてくれる。
こんな私と会話してくれる。
そんな貴重な……その、友人を怖がるなんて、あるはずないだろ?
「それが答えだよ」
ますます、分からない。
私が慧音を怖がらないのが、答えなのか?
私が怖がっていないことが、答えになるのか?
「私だって危険なんだ。やろうと思えば妹紅を殺すことも出来るし、この村を壊滅させることだって出来る」
「いや、それは……そうかもしれないけど。慧音はやらないだろ?」
突然何を言い出すんだ?
私は殺されても死なないけど、村の連中は違うぞ?
殺せば死んでしまうし、壊滅させようと思えば壊滅してしまう。そんな弱い奴らなんだぞ?
「ああ、勿論そんなことはしない。でも、やろうと思えば私も妹紅と同じように、それぐらいは出来るんだ」
「――っ」
そういうことか。
「はぁ……で、慧音は結局何が言いたいんだ?」
もう分かってしまった。
彼女が何を望んでいるかを。
もう分かってしまう。
彼女が何を言うかを。
「分かっているだろ、妹紅」
そーかよ。私の口から言わせたいわけか?
くそ、恥ずかしいのは勘弁だ。
「慧音は私と同じように、村を壊滅させられる。でも、私と違って村人に好かれている」
私は竹林の中に隠れ住み、慧音は村に住んでいる。
私は村人に拒絶され、慧音は村人に囲まれている。
私は人々を拒絶し、慧音は人々を守ろうとしている。
暴れまわる力は危険だけど、制御された力は安全……なのか?
まぁ、慧音が言いたいのは、そこじゃないんだろうけど。
「私は慧音と同じように、村を壊滅させられる。だから、私もやり方次第で、村人と仲良くなれるって言いたいんだろ?」
面倒だし、得があるとは思えない。
すぐに出来るわけはないし、出来るとは限らない。
「そうだな。妹紅ならきっと出来るぞ」
――眩しいな。何で笑顔なんて見せるんだよ。
勘違いするだろ?
私でも出来るかもしれないって。
思い込んだら、どうするんだよ?
慧音の隣で笑ってられるかもしれないって……。
「努力してみるよ」
でも、慧音の笑顔の前で無理なんて言えなかった。
悲しませたくなんかないし、もっと笑顔を見ていたいから。
「ふふ……素直な妹紅は大好きだぞ」
「なっ、そ、そんなこと軽々しく言うな!」
大好きだと?
慧音が私の事を大好きだと?
そ、そんな訳ないよな?
「まったく、何で恥ずかしがるんだか」
やっぱり慧音も妖怪だな。そこら辺の感覚は人間のとは違うんだろう。
「さて、村人も待たせていることだし――行くぞ、妹紅」
「分かったよ……」
変わる為に必要なのは勇気。
新しい世界へ飛び込み、新しい自分を認められる勇気。
相手の存在を認め、自分を認めてもらう為の勇気。
怖くても、恐ろしくても、自分自身が変わるしかない。

まったく、世界ってのは難儀だな――





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