クッキーとミルクティー

「にがい」

 セシル作のクッキーを口に運んで、カインは素直な感想を述べる。
 皿の上の焦げたクッキー(さすがにあまりにも黒コゲな部分はこそぎ落としたものの、そのせいで形もひどく不恰好)と、ミルクティーを入れたポットをはさんでテーブルの向かいに座るセシルも、同じようにクッキーを齧り、やはりカインと同じ感想に至った。

「失敗したなぁ。途中で覗いた時は真ん中辺が生だったのに……。多分、生地は悪くなかったと思うんだよね。火加減が違うのかな? ローザと一緒に作った時はもう少しうまくできたんだけどなぁ」

 天版に乗せたクッキーのうち、比較的無事だったのが今皿に乗っている分で、他は食べられる状態じゃないほど焦げていた。特に薪に近かった部分は全滅。そんな風に今日のお菓子作りの様子を振り返る。
 ついでにこいつも全滅分と一緒に処分してしまえば良かったのに、と皿をつつくカインに対して、だってもったいないじゃないか、がんばれば食べられるのに、とセシル。

「僕とお前で5枚づつ食べれば終わるんだよ」
「………」

 その『がんばれば食べられる』菓子を片付けるためだけに呼びつけられたカインはいい迷惑だ。
 
「やっぱりオーブンの火加減なんだろうな。城の釜の事は城の調理人さんに聞いたら教えてもらえるかな」

 今回の反省を次回に活かそうと思案顔のセシルに、カインはなんだって急に菓子作りになど嵌りだしたのかとたずねた。

「ローザがよくお菓子を作ってくれるだろう? とってもおいしくて、僕はすごく幸せになる。だから僕もそうやって、誰かをすごく幸せにできたらいいと思ったんだけど」

 セシルはいつでも『あげたがり』だ。自分が幸せになったら、その分相手や他の誰かにも幸せを返したい。別に自分が幸せでなくても、誰かを幸せにしたい。
 すごく道徳的で立派なことだ。でもその根底は小さい頃から、悪意と善意の両方の意味で「拾って育ててもらった事に感謝して、いつか御恩を返さなければね」と、言われて育ってきたことに由来するとカインは見ている。
 俺たちの間でくらい、素直に幸せを貰うだけにしておけばいいのに、と黒く粉っぽい菓子を眺めて思った。

「このクッキーを見る限り、そうなるには修練が必要そうだな。それに思うんだが、俺たちの間だとローザの作った菓子の味を知っている分、お前の菓子に感動できる日は遠そうなんだが」
「えっ、そ、そうかな」
「少なくとも俺はローザの二番煎じで作られた甘い菓子より、塩気の効いたハムとかの方がいい」
「ハムはさすがに作れないなぁ……」

 突き出されたカインのカップに、セシルはミルクティーを注ぐ。
 そういえばカインは紅茶はミルクティーよりもストレートを好んでいたので、お代わりを要求してくるのは珍しい。

「このクッキー。一つだけ良い点があるとすれば、ミルクティーがやたらと美味く感じる所だな」
「……カインの意地悪」



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