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【一撃必殺】

「う~ん・・・ムーン・・・スペシャル・・・トルネードパンチ・・・?
いや、違うなぁ・・・もっとこう、強そうな・・・。」


射し込む暖かな陽の光。ゆっくりと頬を撫ぜる風。
ふんわりと漂うコーヒーの香り。

あぁ、穏やかな午後。
時間も、どことなくゆっくり流れているようで。


「ムーン、エキゾチック、タイガーキック!!
・・・なんか惜しいなぁ・・・タイガーは違うのかなぁ・・・うーん・・・」


・・・。


気を取り直そう。

ふとベランダのほうに目をやると、小さな雀が2匹さえずる。
それにつられて俺もほほえみ、読みかけの本に目を落とす。


「ムーン、エクセレント、スーパーセクシー・・・
いや、やっぱり、ムーンエクセレント、スーパートロピカルセクシー・・・」


・・・気を取り・・・


「直せないよな・・・。」


さよなら、俺の穏やかな午後。
俺は大きな溜息をつきながら、なにやら必死に呟くうさの頭を叩いた。


「あ、ごめんまもちゃん、うるさかった?えへへ。」

えへへじゃない。
しかも“うるさかった”じゃなく、
“うるさい上に、めちゃくちゃ気になる言葉だった”が正解だ。


「・・・何をやってるんだ?」

ふと、うさの手元のノートに目をやる。
なにやら長ったらしい呪文のようなものが書き連ねてある。

「あーだめぇー見ちゃだめ!!まだ完成してないの!!」」

「完成してないって、何が?」

「えーその・・・秘密!!」

「秘密って何?」

「秘密なんだから教えられないよー。」

「じゃあ、何がエクセレントでトロピカルでセクシーなの。」

「へっ!?もうなんだー聞かないでよぉー!!」

むちゃくちゃなことを言うもんだ。
あれだけ大きな声で呟いていたのは一体誰だ。


「うー・・・しょうがないなぁ。もう、みんなにはまだ内緒だよ?」

何も言わず、じっとうさを見つめていただけだったのだが、
何かに耐えきれなくなったように、うさは自分から話し始めた。



「あの・・・あのね。
新必殺技?・・・みたいなものを考えてたの。
ほら、ジュピターちゃんとか、ウラヌスとかみたいな、
かっこよくてつよーい、必殺技!!」


“ムーンエクセレントスーパートロピカルセクシーキック”たるものの、
一体どこがかっこよくて強いのか、という突っ込みを腹の奥へと押し沈め、
俺は引き続き話すうさを見る。

「ムーンエクセレントっていう響きはね、決まったんだけど。
そのあとがなかなかしっくり来なくて。
もうちょっとこう、大人っぽい感じにしたいんだけど。」

照れくさそうにもじもじするうさだが、
そもそもうさに、キックやらパンチやらビームやら、そういった技が出せるのだろうか。


「何か良いアイディアある?」

「いや・・・。
うさにはもう、必殺技あるじゃないか。」

「うん、そうだけど、2つ目。」

「良いよ、今のままでも十分。」

「駄目だよーみんなもどんどん強くなっていってるんだから。
私もしっかりしなくちゃね。」

「いや、だってほら、うさはもともとプリンセスだし・・・。」

「そうだけど、守られてばかりじゃいけないと思うの。」


駄目だ。
こうなっては、うさは気が済むまで譲らない。

「そう・・・?
まぁ・・・じゃあ・・・いいんだけど。」

「う~ん・・・どうしよっかな・・・。」

ごめんみんな。
どうしようもないほどセンスのない必殺技の誕生を、俺は止められそうもない。


「ムーンエクセレント、ウルトラセクシー・・・。」

なら、せめて。


「なぁ・・・うさ。」

「ん?」

「あの・・・。
お前の、恋人としてはだな。
あんまり、セクシーな技ってのは、どうかと思うぞ。」

これくらいは、言っとくか。




「まもちゃん。」

うさの動きがピタリと止まる。
まずい。機嫌を損ねたろうか。


「う、うさ?」

「まもちゃん・・・。」


走る緊張。止まった時間。
その刹那。


「・・・ありがとうっ!!!」

うさはそう言って、俺にそっとキスをした。




「あ、ああ・・・///。」


必殺技と言うのなら。

これ以上のものはない。



「う~ん、やっぱり、ムーンハイパースペシャル・・・」

相変わらず、ぶつぶつと呟くうさの背中に、


「これだけは、他の誰も使ってくれるなよ。」
と、俺はそっと独りごちた。




【Fin】

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