この拍手文はR18です ケロロ先生、危機一発 !? であります ■学年主任・ガルル編■その1 ケロン星の将来を担う優秀な人材を排出してきた軍立ケロン学園。 校長は軍現役の大佐が直々に勤めるという、超エリート男子校である。 そのケロン学園において、実質学園の権力を握っているのは学年主任兼、生活指導部長ガルル。 ガルルの弟であり、学園一の熱血指導でPTAからの支持も高い、体育教師ギロロ。 清廉な人望で信頼も厚い反面、裏ではよろずの問題解決にも暗躍するという噂の、保険医ドロロ。 軍も一目置く天才的頭脳で学生側を取り仕切る、性格陰湿の生徒会長クルル。 教師も生徒も超個性的なケロン学園は、その四名を軸に危うい均衡を保っていた。 そのハイパーな学園にやってきた能天気新任教師ケロロの赴任で、学園内にピンクの嵐が吹き荒れる!? ★注意★ このお話は完全学園パラレルです。 続き物ではなく、オムニバス形式となっていまので、一話一話が別の話だとお考え下さい。 学年主任ガルルは、ケロン学園統制の要と言われている。 何か事が起これば、彼の息が掛かる教職員によって速やかに事件は鎮圧される。 治外法権である筈の学園外でも、時と場合によっては手を下すこともある。 たかが一介の教師にはとどまらず、軍部ですら一目置く凄腕教師であった。 まさに「ケロン学園にガルルあり」と言わしめる実力者であることは、揺るぎない事実として広く知られていた。 実弟である体育教師ギロロと生徒会長クルルは犬猿の仲であるが、水面下での抗争はむしろ、ガルルvsクルルではないかというのが事情通の見解だった。 その緊張した学園内の平和中枢が、保険医ドロロである。けっして表だっては動かない彼だが、常に中立の立場を貫く彼に頼る教職員や生徒は少なくない。 そんな二大権力がひしめく学園に、病気療養教師の代わりとして学期半ばに着任したのが、今年やっと教員採用試験に合格したというケロロだった。 校風に逆行する能天気さ、大雑把且つ愛嬌ある性格で彼は瞬く間に生徒たちの間で話題になった。 教師として適任かどうかは甚だ疑問視する声もあったが、憎めない可愛らしさに彼を慕う声も聞こえてきた。 女人禁制の全寮制男子校であるケロン学園では、お年頃の生徒たちが情熱を持て余している。 教師に至っても禁欲を強いられる多忙さゆえ、ケロロの隙だらけの性格は、一部に不穏な空気をもたらし始めていた。 そんな矢先、ケロン学園ではある事件が未遂に終わっていた。 個人情報盗難未遂事件。犯人は未だ特定されていない。 生徒は勿論だが、教職員も優秀な人材が多いケロン学園の個人情報は金になる。 不法アクセスが可能な内部の人間の仕業であることは明白だ。 ガルルの下でも内部調査が続いており、独自にドロロが動いているとの噂もあった。 かの生徒会長曰く。「こんな甘っちょろいセキュリティを破れね〜ようじゃ、大した犯人じゃねェな。ク〜ックックッ」だそうだが。 そしてとある放課後。 部活時間も終わり、教職員も引き上げた職員室から微かな物音が聞こえた。 その情報を得たガルルが密かにモニターチェックをすると、そこに映っていたのは新任教師のケロロだった。 辺りを見回し人気がないことを確認してからパソコンを起動させ、画面を開けていたのはものの数分、それから素早く帰り支度をし、そそくさと職員室を出て行った。 挙動不審なその様子は当然ガルルの目にとまる。後から調べたところ、履歴も全て削除されていた。 それだけで彼が犯人とは断定できないが、不審な行動に関してはまずこの目で確かめなければならない。 翌日ガルルは、いそいそとカバンに書類を押し込みながら帰り支度をしていたケロロに近付いた。 「ケロロ先生、少々よろしいですかな?」 「ハ、ハイ!な、何でありますか?」 ちっともよろしくないという顔でケロロは返答した。 そこまで警戒するとは、何か事情があるのは間違いないだろう。 ガルルはそう判断し、まずは聞き取り調査のために、ケロロを夕食に誘った。 新任教師の彼のことはまだよく分からない。 父親も元・名物教師だったらしく、血筋的に見ても問題ないとは校長の弁だった。 もし仮に彼が犯人だったとしても何か特別な事情があるのかもしれない。 幸い事件は未遂に終わっている。彼が完全に道を誤る前に何とか更生させる手を打たねば。 この時、ガルルはそんなことを考えていた。 学園から遠い場所を選び、落ち着いた雰囲気の居酒屋へ誘った。 店の奥にある少人数用の個室を選び、二人は向かい合って座った。 「どうですか、そろそろ慣れましたか?」 ビールを注ぎながら、よくある世間話から入っていく。 「いや、まあ、ぼちぼち…であります」 具体性に欠けた回答だな、とはガルルの感想。ならばと更に突っ込んだ質問に移行する。 「授業の進行状況と生徒の理解度との格差、及び指導要綱についての不安、学園内外での生徒の問題行動やいじめ、PTAとの確執や、職員同士の連携。学園運営方針への理解諸々と、把握すべき点も教職員としての仕事も尽きない。まだ校風に慣れていないケロロ先生が何かしら悩みを抱えていらっしゃるのではと思いましてね、状況をお聞きするために今夜は時間を頂いたのですよ」 ケロロの表情も言動も見逃すまいと凝視するが、当人は口をパカッと開けた間抜け面で、目をただ白黒させていた。 そんなに一気に言われても分かんねーよ!という本音は隠して、頭に入った単語のみ上げ連ねてみる。 「あの、うーんと、えーっと、授業と生徒とPTAと校風が…と……まあどうにかこうにか適当にやっているであります」 ガルルは思わず苦笑した。全く私の質問内容を理解していませんねと言いたいところだが、敢えてそこには何も突っ込みを入れずに質問内容を変更した。 「ケロン学園はいかがですかな?」 「ゲロッ?楽しいでありますよ〜」 今度は即答で返ってきた。 緊張に満ちていた表情が、一気に破顔する。ふにゃりと下がった目尻、桃色に染まる頬、その屈託ない笑顔に、これは本音なんだろうとガルルは確信した。 規律も厳しく校風も独特なケロン学園が楽しいと、あっさりと言い切れる教職員は多くはないだろう。 教師というよりまるで新入生のような素直さに、ガルルの険しい表情も緩む。 この様子だけなら、到底盗難事件の犯人とは思えない。しかし昨日の怪しい行動は事実だ。 ガルルは冷静に頭を巡らす。 もし…これも演技だとしたら?彼はとんでもないしたたか者だということになる。 一瞬で緊張感を全身に漲らせる。 金色の瞳がスッと細まり、口端が僅かに角度を上げた。 彼を知る誰もが恐れる、獲物を狩る猛禽の目に変わる。 軍部から幾度となく勧誘を受け、それを断り続けた敏腕教師が本気になった瞬間だった。 「ケロロ先生の噂をいくつか耳にしましてね…」 低音が一層、重く響いた。 ケロロはきょとんとした表情で、ガルルを見上げる。 「なかなか生徒たちに人気があるようですね」 その言葉がよほど嬉しかったのか、ケロロは頬を桃色から朱赤に染めて照れ臭そうに笑った。 「そう言われると嬉しいであります。ケロン学園の生徒たちは皆可愛くて、皆懐いてくれて嬉しいでありますよ」 ほぉ、とガルルは頷いた。 「それは素晴らしいことですな。ただ…」 「ただ…何でありますか?」 ケロロは気になるといった様子で、身を乗り出してきた。 「妙な噂話も入ってきています。例えば、誰もいない職員室で何か作業をしている貴方を見たとか」 直球はケロロのどてっ腹に、大きな風穴を開けたようだ。 リトマス試験紙の実験のように、顔色がさっと変わる。 今度はガルルが身を乗り出し、後ろへ退こうとしたケロロの腕をがっちりと掴んだ。 その2へつづく |
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