ツンとした鉄の匂いが鼻腔を擽る。  

(何の、匂いだろう。)
ただ空を見上げたままそう思った。
ぼんやりとした頭を巡らす様首を擡げると、

ピチャリ

青い世界を横切るように、赤い雫が滴り落ちた。
(あぁ、そうか。)

「・・・・・・血の、匂いだ。」
それはあまりに身近過ぎて、違和感も、不快感も、驚きでさえも感じなかった。
仰向けの身体はそのままに、腕で視界を覆った。
ぬるりとした温度がその範囲を広げたが、拭い去ろうとは思わなかった。

(あの日から、僕の手は赤いままだ。)
父を手にかけた、幼い兄妹を守るんだと決めた、あの日。
あの時から。(きっとずっと、拭い去ることなんて出来やしない。)

投げ出した身体を叱咤し、のろのろと起き上がった。
どうしたことか身体が重い。
なんだろう。この虚脱感とも呼ぶべき感覚は。

(多分頭を打ったんだな。)
何故自分はこんなところで倒れていたのか。
それすらもまだ思い出せてはいないのだから。

そう結論付け、立ち上がろうと視線を上げた。

「―――、え?」(イマ、ナニカ。)
刹那、瞬きをした。

ウ ツ リ コ ミ ハ シ ナ カ ッ タ カ 。

 
頭の中で、高らかに警報が響き始める。
(見たくない。見たくない。見たくない。見たくない。)
見たくなんて、ない。

映る世界に思考が繋がる。

「・・・ルルー、シュ?」

あぁ、そうか。そうだ。なんで。どうして。そんな。君が。

「・・・どうして・・・きみ、が・・・?」

広がるマント。流れる真紅。向けられた手。


奏でた、銃声。

「どうして。どうしてなの、ルルーシュ。」

震えの止まらぬ手足で、彼の元へ這って行く。
一歩。また一歩。赤い手形が増えてゆく。


守られるもので、あって欲しかった。

(例えそれが自分のエゴで、自己満足で、自己保身だと知っていても。)


「・・・――なんで。どうして。君が。・・・君がああああああああああああああああ」

赤い掌で握った彼の首筋が、あの日の彼女の手に重なって。

伝う涙に顔を埋めた。


(涙という名のそれは透き通っていてとても綺麗だったのに、僕の血と彼の血と交じり合ったそのときに、色も形も性質でさえも呼び名を変えて、毒となり澱み落ちた。)


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