〔 メロンパン 〕 朝7時半少し前。 夜通し仕事して。 一番眠くて、一番忙しくて、一番限界が近い時間にやってくる人がいる。 その人は必ず、メロンパンとコーヒーを買っていく。 おれは、その人のことを勝手に「メロンパン」と呼んでいる。 同じものばっかり食べてると病気になるよ、っていっつも思うけど。 なんだか、大切そうにメロンパンを抱えてレジにやってくる姿を見ると、 「ま・・・いっか」って思う。 そんなに美味いのかと、おれもそれを買ってみたけど・・・別に普通。 なにがそんなに彼を夢中にさせるのか、それも不思議だ。 年は、おれとそう変わらない・・・25・6といったところ。 なりはいつも小奇麗で、「サラリーマン!」って感じ、しかも、いい会社っぽい。 (なんとなくイメージだけど) でも、いっつもネクタイがほんの少しだけ曲がってる。あと、結び目がいつもまちまち。 きっと、不器用なんだろうな、この人。鏡の前で、「あー!もー!」とか言ってる姿が容易に想像できる。 やばい、おもしろい。思わず笑いがこみ上げてきて、慌てて俯いて、自分の爪を噛んだ。 「すいませーん」とカウンターに置かれたのは、コーヒーとカレーパン。 「え?」と思って、顔を上げた。おれの目の前にいるのは、確かに「メロンパン」さんだ。 思わず、カレーパンと「メロンパン」さんを交互に見てしまった。 「カレーパンですよ、これ」 と言ってやりたい。てゆか、そう言えば今日はメロンパンがよく売れたな・・・、売り切れか。 「ごめん、メロンパンさん」と心の中で謝って、カレーパンのバーコードをレジに通した。 「お前さー、早くメロンパン作れるようになれよー」 コンビニのバイトが終わってから、いつも入り浸るのは、コンビニの近くのパン屋。 おれの幼馴染が始めたパン屋。小さな小さなパン屋で、厨房の奥に少しだけスペースがあって そこで寛ぐ。 朝早くから店を開けて、出勤前のリーマンやOLさんに大人気!らしい(最後は本人談) その波がひと段落してから、おれと相葉は奥に引っ込んで、遅い朝食を取る。(夜勤明けのおれにとっては夕食か?) 今日は・・・・・「な、なにこの中身・・・」 「海鮮パン!」 「バカか!コスト、高すぎだろ!その前にマズイよ!」 「まーじでー?美味くない?このさー、・・・カニの感じとか」 「ま!ず!い!もう、絶対!作んなよ!!」 「ふわーい・・・」 「あ・・・相葉くん。みるくぱん、ちょーだい?」 「・・・それは金払えよ、お前」 「ふわー・・・・・い」 相葉のパン屋には、中古の古いオーブンが入っている。 いい具合に焦げてて、使い込まれてるそのオーブンの扉がガコンと音を立てた。 焼きたてのみるくぱんを二つ、相葉はおれに渡した。 あったかくて、やわらかい。 「あ、そうだ。今日さー、メロンパンが売り切れで、カレーパン買ってった」 「えー?メロンパンさん?」 「そう、メロンパンさん」 「かわいそー。きっと、メロンパンだいすきなんだろうなー」 「だから、お前早くメロンパン作れるようになれよ」 そしたら、おれの友達がパン屋やってますよー、って教えてやるんだ。 只今の時刻は、午前9時45分。 おれの「今日」が終わる。 *つづく* 次には、「エピローグ」です。 |
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