春待ちて

「そうか、アデリーヌか‥‥」
 義息からの文に目を通し、彼は目を細めた。
 かつて共に剣を振るった同志達、その娘であり、また恋人であった彼女のことは、いつまでも身を固めようとしない義息と並んで気がかりであった。
「まさか、同時にカタがつくとはな」

 今は去った連中を思い出す。
 フェリクスの父、アデリーヌの父、アデリーヌの、恋人。
 故郷を近しくする、気の置けない仲間達だった。
「皆とっとと逝っちまいやがって‥‥」
 思いもよらないことだった。自分ひとりこうして、彼らが残した若者達に、やきもきさせられるなど。
「だが、これで少しは荷が軽くなる」
 そうして一歩、彼らの方へ歩を進める。土産話を、ひとつ増やして。
「後は‥‥あいつか」
 かつての部下、今は灰の分隊を率いるまでになった男。
 他者に化け、他者を操り、他者の心の襞に入り込み‥‥そのくせ、自身の確とした姿は誰にも晒さず、浮世を泳ぎ回る男。
 人の裡を見透かしているようでいて、肝心なところで「人」を解っていないようにも見える。
「どうして俺の元部下共は‥‥アクの強い連中ばかりなんだか」
 苦笑するも、その中でも特別厄介であった2人が、今ではそれぞれブランシュの分隊を率いているのだから、不思議なものだ。
「なぁ、あんな奴らが分隊長で治まる国なら、そう、悪くはないよな?」
 目を閉じて、記憶の中にのみ残る顔に語りかける。
 敵と己の血に濡れ、地を這い泥にまみれ、見上げ続けた、はるか遠いとおい理想の地。その場所を、今を生きる者達は創っているのだと、そう、思ってもいいだろう、と。



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