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IOException SS1 「IFストーリー① 陽菜がラスボスだったら……」


 


 そこは、洞窟の中とは思えないほど立派な神殿だった。床には純白の大理石が敷き詰められ、壁には名前は分からないが、有名だと思われる神々の絵が刻まれている。入り口から奥に向かって左右に、手の込んだ彫刻がなされているコリント式の柱がシンメトリーに並んでいる。夢の中の世界というのは、まさにこのような場所のことを言うのだろう、と祐太は思った。


「よう、斉藤」


 神殿の中に声が響いた。祐太は声の出所を探し、正面に彼女の姿を捉えた。


「陽菜……」


 最奥の壁に据えられた純白の椅子に、陽菜が両手を組んでちょこんと座っている。祐太は口にしなかったが、とても貧相なオーラが漂っていた。


「何でお前がこんなところに? ここにいるのは加瀬のはずじゃ……」

「それは、あたしが真・管理者だからよ」


 陽菜は椅子に腰掛けたまま、薄笑いを浮かべて返答した。「なんだってー!」とオーバーに驚く準貴の様子が祐太の目に浮かぶ。


「互いに争おうとするPTもなくなったし、もうゲームは終わったんだ、陽菜。勝手なことを言わないでくれ」

「まだよ。今回の仮想世界への接続は特殊で、あたしを除く全てのプレイヤーがゲームオーバーになった場合、BCIケーブルを通じて斉藤の脳に害を与えるようにプログラムされている――らしいわ」

「俺だけかよ」


 祐太は彼女を倒した後で、とっちめようと考えていた。


「――ハッタリだ。市販されている機械でそんなことができる訳がない!」


 市場に出回る製品には安全規格が定められているはずである。多少間違った使い方をしても害が出ないように作られている。


「よく分からないけど、クロックアップルするとBCIケーブルは、その、いろいろヤバいらしいのよ」


 言えていないが、ゲームオーバーになったはずの彼女がここにいるのだ。祐太は気を引き締めた。

 祐太が水蒸気を凝結させ、氷の大剣を手の中に生成した。肩に担いで駆け出そうとする。しかし眉をひそめて動きを止めた。


「足が――動かない……?」


 神経自体が通っていないかのように、足はぴくりとも動いていない。


「驚いた? 今のあたしは、雷神で生体電流すらも操ることができるのよ!」


 脳から足の筋肉に伝わる信号を阻害しているらしい。以前の陽菜とは桁違いに強くなっているようだった。


「やる気になれば、こんなことだってできるわ」


 陽菜が手をかざす。すると祐太は大剣を逆手に持ち、切っ先を自分の喉元に当てた。彼の額に冷や汗が垂れた。


「体が勝手に――、これもお前の雷神のせいか?」

「そーよ。でも今回は、復讐のために直接倒してあげる!」


 陽菜が手を降ろすと、祐太の体が解放された。剣を握り直した彼の前に、雷を纏った拳を構えた陽菜が迫る。


「そうはいくか、また倒して泣かす!」


 大剣の刃先が氷を纏い、伸長していく。祐太は峰を昇華させ、その反動で巨大な刃を振るった。


「前回泣いたのはどっちよ! もっかい泣かす!」


 拳の周りに十個の雷の球が浮かんで回っている。中央で一つに収束し、巨大な光の塊になった。陽菜が大きく振りかぶった拳を突き出した。

 氷の刃と雷の拳が交差する!!


 


「まったく、仕方がない奴らだな……」


 机に突っ伏している祐太と陽菜を見て、担任はため息をついた。

 ここは英語研究室で、今は英語の追試中である。彼が少し席を外した間に、二人は気持ちよさそうに寝入っていた。

 今日も二年二組は、平和だった。




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