お礼ショート夢もどき(NO.102)
常陸院光バージョン





 お休み前の貴重な金曜日の夜。

 私は課題のレポートに手を付けていた。

 明日はデートの予定なので、思いっ切り楽しむために嫌なことは先に片付けておくに限る。

 カフェインレスのコーヒーを飲みながら、カチャカチャとキーボードを叩く音だけが響く静かな夜ーーー

ピピピンポンピンポーーーン

ーーーーを切り裂くインターホンの音。

 しかもこんな特徴的なインターホンの鳴らし方をする奴は、私の知る限りでは一人しかいない。

 「こら! 光、うるさい!」

 一応女の一人暮らしのため、モニターで犯人を確認してからドアを開けた。

「ただいまぁ」

「ここは光の家じゃないでしょ」

 見るからにぐでんぐでんに酔っぱらった彼氏が抱きついてきた。

 抱きついてきたというより、立ってられなくて寄りかかってきているだけかもしれない。

「あー、もーっ。狭いのに!」

 お金持ちの光の家と違って、うちは狭いのだ。こんなでっかい成人男性が入ると、より狭く感じるくらいには。

 部屋の端っこの壁に光をもたれ掛からせて、反対側に課題中のノートパソコンが乗ったテーブルを寄せる。

 空いた部屋の真ん中に布団を敷いて、既にすぅすぅ寝息を立てている光をなんとか布団へと引きずる。

「よし」

 余計な体力を使ってしまったが、明日会う予定だった彼と一日早く会えたと思えば許せなくもない。

 光は今日大学の友人たちと飲み会だったはずだけど、こんなになるくらい飲むなんて珍しい。

 光の顔が見える横にテーブルを移動して、横目で光を眺めつつ課題が出来るようにする。

 髪をひと撫でしてやる気を補充したら、真面目に課題にとりかかろう。と思っていたのに、そのサラサラさに楽しくなってしまって、撫でるのに夢中になってしまっていた。

「あ、課題やらなきゃ」

 我に返った頃には、既に5分くらい経過していた。

「危険な髪の毛」

 髪質とスタイリング剤の関係なのか、サラサラな時もあれば、ツンツンと硬めな状態になっている時もある。その日によって違う触り心地を味わうことが出来るのだ。

 光の髪は危険物。気軽に手を出してはいけない。

 大切な学びを得て、さて課題と思ったのに手が光の髪から離れない。

 これは別に私の自制心がダメダメとかいう話ではなくて、いつの間にか私の手の上に重ねられた手にしっかりと押さえこまれていたからだ。

「ひかるー? 離してー?」

「ヤだ。止めないで」

 困った。止めたくないのは私も同じだけど。

「課題やらないと明日のデートに支障が出るよ」

「じゃあ、膝貸してー」

 何がじゃあなのかわからないけれど、文句を言う間もなく、折角敷いた布団を抜け出した光が私の膝に頭を乗せてくる。

 謎に満足そうにふふんと笑った後、光は再び寝息を立てだした。

 課題を進めながら、集中力が途切れた時には気晴らしに光の髪を撫でたり、頬をつついて気分転換。

 意外と課題はテンポ良く進み、日付が変わる頃には光の隣で私も横になることが出来た。

 翌日光が二日酔いで寝込むようなことがなければ、きっと楽しく過ごすことが出来るだろう。



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