「デートしたいです。」
「は?」

唐突な鳳の言葉に驚かされるのはいつものことだが、いつまでも慣れないのは自分に順応性が足りないのだろうか。
いや、そんなまさか。誰だってびっくりするはずだ。

「長太郎、今部活中だぜ?」
「わかってます!」

はっきりとした元気のいい返事。
そういえば俺たちは運動部だっけ、と当たり前なことをぼんやりと考える。
鳳はいつでも一球入魂だ。

「…デートしたいです、宍戸さん」
「だから今は部活中だっての。アホかっ」

そう言って叩いてやると鳳は泣きそうな顔をした。
多分痛みのせいではないだろう。そんなにデートがしたいのかと宍戸は頭が痛くなる。
だが、まあ確かに全国出場が決まってから毎日テニステニスで2人で過ごす時間はほとんど無い。
体を休めるための休日も、自主練習に明け暮れていた。
ちなみに自主練習というと跡部の家にある専用コートを使うので、2人きりというわけにも行かなかったりする。
そんなわけで鳳が急にこうなった原因は宍戸にあるといっても良いかもしれない。

「…宍戸さん」

再度、声がかけられる。どうしても諦めきれないという表情に、少し動揺する。
だって宍戸と鳳の関係は『鳳の片思い』ではなく『恋人同士』だ。
ちゃんと言ってあげられないけれど、それほど自分は甘い関係を望んでいるわけではなく素直じゃないけれど。ちゃんと、鳳のことが好きなのだ。

「あーっ!もう、わかったよ!」

鳳の縋るような目に頭をがしがしと掻きながら叫ぶ。そんな目で見られて、そんな声で呼ばれたら了承するしかなかった。

「けど、今日の練習試合で勝ったらな。じゃねぇと絶対駄目だ、次の休みも練習だ。」
「ほ、ホントですか?」
「男に二言は無ぇよ…負けたら特訓だからな。徹底指導してやるから覚悟しろよ」
「はい!もちろんです、やったあ宍戸さんとデートだ!」

うきうきと鳳は鼻歌でも口ずさみそうなくらい上機嫌でラケットをいじる。
今泣いたカラスがもう笑った…とでも言いたくなるほどの切り替えの早さだ。
試合の相手は日吉・向日の新生ダブルスペア。
組んでまだ日が浅いが、自分たちも組んですぐに忍足・向日ペアに勝利している。
油断はできない。氷帝最強ダブルスの名は伊達じゃないことを見せてやろう。

(まあ、負けたら…2人きりで特訓だな長太郎)

嬉しそうに準備をする鳳を見ながらそんなことを考える。
けれど言ってはやらない。
すっかり鳳の波に流されている自分が悔しいから。

…さて、負けようが勝とうが次の休みは2人きり。
鳳が知らない間に、デートの約束は既にされていた。

幸せものは未だにそれに気付かない。



ついでに一言あればどうぞ(拍手だけでも送れます)

あと1000文字。