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【拍手小話】 道?



彼と出会ったのは夜更け。

友人との飲みの帰り、一通りむしゃくしゃした気持ちを吐き出したのはよかったけれど
なんだか心がきしんだ。毒を吐いたのは自分のはずなのに。

駅前に止めた自転車を拾って、自宅へと漕ぎ出した。
国道沿いだから道路は明るいけれど、歩道は暗い。
ぽつぽつとある街灯に照らされた下り坂が、冥府への道のようで
余計気が沈んだ。せめて晴れてくれさえすれば、この道も悪くないのに。
下り坂なのに重く感じるペダルを漕いだ。
下って登って曲がってしまえば家だ。さっさと帰ろう。
そう思ってスピードをあげた瞬間、少し先にある街灯が照らす人のシルエット
に気づいた。

「すいません。止まって下さい」

警察官だった。この道はわりと物騒なんだった。にしても早く帰りたいのに面倒くさい。

「急いではるところすいません。1時間ほど前この先の公園近くでひったくりがありましてね
 緊急警備中なんですよ。いつも前カゴに荷物乗せてはります?」
「ええ」
「そう…、そしたらねカゴにネットをかぶせるとか、ハンドルにこう、なんていうかな
 巻きつけるとかして、被害にあわんように気いつけてくださいね」
「…はい」
「あとライト。暗闇やと自転車は目立たへんからつけてください。重くなるけど
 危ないから」
「ああ、はい」
「あと、登録番号確認していいですか?一応、申し訳ないけど」
「はい…」
小さく呟いて、私はサドルの下にある登録番号を見えるため自転車を降りた。
「と、お名前は」
「井上です」
このとき初めて彼の顔を見た。太い眉毛に大きな黒目がちの瞳。くっきりとした顔立ち。
制服を着ていると、皆同じにおじさんに見えていたけど、この人はカッコいいかもしれない。
「右京区xxxx、登録番号確認お願いします。xxxxx井上さん」
意識して聞いてみれば、話し方も柔らかで、はりのあるいい声だった。
最後に苗字を呼ばれてドキリとした。

「それとね…」

普段だったらテキトーに流すお説教に近い注意も
彼の言うひとこと一言を残さず聞きたかった。

「…それじゃ、気いつけて帰ってくださいね。井上さん」
「あ、はい…」
にっこりと送り出されて、耳が赤くなっていく音を聞いた気がした。
歌とかそういう世界だけのものだと思っていたのに。

この道が暗くてよかった。
月が出てなくてよかった。


「あ…名前おしえてもらえばよかった…」


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2008.10.26追加
博雅、仕事中の一コマでした。
晴明に怒られる原因ですね(笑)




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