ラブラブカップルに捧ぐ 03.惚れたら負けよ。




「キライ」

本人睨んでいるつもりの。
その実俺からすれば可愛らしいとしか言えない顔で心にぐさりと突き刺さる言葉を吐かれたのは、何が原因だったのか。
嫌いになられた理由も分からず、返す言葉も見つからず。
考えることを放棄しかけたところで、ふと気付けば。

「九龍?」

愛しい宝探し屋は俺の前から姿を消していた。

「九龍」

避難場所は多分ここだろうと思って屋上のドアを開けば。
柵にしがみついて下を見下ろす見慣れた背中。

「カレー星人のくせに」
「は?」
「甲太郎なんて、カレー星人のくせに」

振り返りもしないまま意味不明の言葉を繰り返す。
多少どころではなく引っかかるが、深呼吸をして自らを落ち着かせる。

「俺がどうした」
「さっちゃんに可愛いって言われた」
「……は?」

問いには答えず更に意味不明な言葉を付け足す。
答える気がないのか、九龍は再び俺の疑問を無視して続ける。

「どうしても駄目なもの以外、きちんとバランスよく食べてるのに」
「ああ、そうだな」
「どうしてカレー星人の甲太郎はそんなにすくすく育って俺の背は伸びないんだ!」

急に立ち上がると俺を見上げて九龍は泣く一歩前の顔になる。

「気にしてたのか?」
「だって背が低いと色々困るんだ。高い所にあるものは届かないし、いっぱい助走をつけないと遠くまで飛べないし」

ああだこうだと不満を並び立てる九龍をとりあえず抱きしめて。
思ったままを、口にする。

「俺がいればどうにかなるだろ」

ぽかんと口を開けて見上げる間抜け面に一つキスを落して、繰り返す。

「高い所にあるものは取ってやるし、遠いところは……放り投げるか?」
「……良いの?」
「急に嫌いと言われるよりはだいぶましだな」

惚れたら負け、などというが。
ほだされたら負けというか、何と言うか。

「さっきの嫌いは取り消すな?」

確認してしまう辺り、まだ俺も弱いというか。

「うん。悪かった。好きだよ、甲太郎」

…………俺が弱いのはこの笑顔であることは間違えようがない。



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