相変わらず、何もする気が起きない一日だな…。
特に部活に入っているわけでもなく、敢えて言うなら帰宅部だから、放課後は別段やることが見つからない。
「そんなことじゃだめだよ、弟君!」
本人は睨んでいるのであろう音姉の可愛らしいとしか言えない顔と口癖を思い出しながら、桜公園に来ていた。
由夢は珍しく校門にはいなかったから、きっと友達と帰ったのだろう。
(…いや、いつも俺と帰ってたことの方がおかしいんだろうな)
いくら兄妹同然に育ったとはいえ、この歳で毎日一緒に帰るって。
世の中の妹萌えの男どもに羨ましがられそうな日常の方が、きっとおかしかったんだろう。
桜公園まで来ると、ベンチに座っていつ見ても咲き誇っている桜の木々を見上げる。
なんでこの島だけ、桜が一年中咲いてるのかは知らないが、いつ見ても…まあ、綺麗だよな。
いい加減見飽きたような気もするが、綺麗なものは綺麗だ。
掃除のことは考えないようにしよう。
(やばい、春先は…やっぱ眠気が…)
変な体質(?)のせいで眠れないこともしばしばな時に、この陽気は辛い。眠ってくれと言わんばかりだ。
眠気に逆らえず、背もたれに体を預け、目も閉じてしまう。
ここで寝たら音姉に怒られるんだろうなぁとか、由夢に馬鹿にされるなとか考えると、それだけで少し眉間にしわが寄ったのが自分でも分った。
「もしもし…?」
「……」
「あの、大丈夫ですか?」
「え、俺?」
パチッと眼をあけると、心配げに俺の顔を覗きこんでいる女の子がいた。
きっと同い年くらいの子で、前髪の横が両方ともちょこんと跳ねている。
美人系、では決してないけれど、愛嬌のある可愛らしい女の子らしい女の子だった。
制服からして同じ風見学園だろう。
「はい、なんか苦しそうだったので大丈夫かなって…大丈夫そうですね」
少し笑った表情も控え目で、周りに気が強い女の子ばかりな身には新鮮だった。
「あ、いや、ここで眠ったら怒られるだろうなーって思ってただけだから。大丈夫だ」
照れ隠しのような苦笑いで返すと、そうですかとまたにこっと笑う。
「ならいいんです。えーっと、じゃあ私はこれで」
「あ、ごめん!君、風見学園の子だよね?」
用は済んだとばかりに踵を返したその子に、思わず声を掛けていた。
「え、はい。2年の古城です」
コジョウ?
一瞬、堅物で有名な歴史教師が浮かんだが、兄妹にも見えないから聞き間違ったか、別の字だなと即座に判断する。
「俺は3年の桜内義之って言うんだ。コジョウさんの下の名前は?」
「史桜っていいます。歴史の史に桜で史桜」
「史桜か。可愛い、いい名前だね」
桜がつく名前なんて女の子っぽくて可愛いと思う。
名前に夢がついている女の子もファンシーでいいとは思うが、桜のように花の名前がついてるのもいいよなぁ。
「そんなことないですよ!」
ぶんぶんと頭を振ってまで否定される。
な、なんでそんなに頑なに否定するんだ。
よく分からん。
「え…っと、よく分かんないけど、史桜ちゃんね」
覚えたよ、と笑うときょとんとされる。
「今度、学校で会ったら声かけてね。俺も見かけたら掛けるから。ここで会ったのもきっと何かの縁だし」
「はあ…」
曖昧に頷くと、かすかな笑顔と会釈で帰って行った。
「うーん…」
彼女の去った公園の出口を見つめて、ゆっくりと伸びをする。
俺の周りにはいない、珍しいタイプの女の子だった。
学年が違うから会うことはないかもしれない。
それに、たった5分話したかどうかだし。彼女は明日まで俺の顔と名前を覚えていてくれるだろうか。
でも、そうだとしても不思議とまた話したいと思った。
「明日、探してみるか」
一緒にいた5分間に感じた、あのフワフワした空気をもう一度味わいたいと自然に思っていた。
月の咲く空
これからの二人に30のお題 16.公園(義之×史桜@D.C.?/D.C.G.S.)