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『セキメン』

目の前の白桃みたいな頬が、瞬間、熟れたプラムの赤に染まった。

「?」
驚いた魔王は思わずぱちくりとまたたく。それほど一瞬の出来事だった。

「ルカ?」
「…」
ある晴れた午後のひととき。庭に配した、
白いペンキで塗られた簡素なテーブルとベンチでお茶を楽しんでいた最中。
別になんということのない会話をしていたはずなのに、いきなりこの表情だ。
その頬のあまりの鮮やかさに目線がくぎづけになり、離せない。
たがいに何も言えないまましばらく真正面から見つめあっていると、
相手の瞳がうるり、と濡れたのがはっきりわかった。
と、途端に少年は花がしぼむようにしおしおと、顔をうつむけてしまう。

「な、な、なんだ!?」
見てるこっちまで動揺してしまいそうな赤面っぷり、恥じらいっぷり。
うろたえすぎて、落ち着きなく腰を浮かしそうになるのを押しとどめつつ、
魔王は必死にさっきまでの会話を脳内で回転させる。
なにか、まずいことを言っただろうか。
少年の伏せた瞳のわずかな揺らぎにさえ心が乱されるのは、この子に嫌われたくないからだ。

見た目ではスタンのほうがはるかに大人なのだろうが、
こと恋愛において少年と魔王の経験値はほとんど似たり寄ったり。
いつも余裕などこれっぽっちもない。
ただ、ふがいない性根を恋人の前で露呈したくなくて、
いいところを見せたいスタンが、大人のふりで体面をとりつくろっているにすぎない。

「なあ、どうした?…余が何かしたのか、黙ってたらわからんだろうが、おい…」
だからこういう時、相手の心中を察することができず、すぐに動揺してしまうのだ。
情けないことこのうえない。
ルカがちらりと目線だけを上げた。まだ顔は赤いが先程よりは落ち着いたようだ。

「あの…ごめんね、そんな、大したことないんだよ、ちょっと…考えちゃっただけなんだ」
「うむ?何をだ?」
「ええと、そのう…」
また顔を伏せてもじもじとする。相当恥ずかしいらしい。
これ以上追及しないのが大人としては正しいのかもしれないが、
ここまで引っ張られるとどうにも気になってしかたがなかった。だから、

「いいから、言ってみろ。別に咎めたりはせんから…」
顔に浮かぶのがなるべく優しい表情になるように努力しながら、ルカのうつむいた頭に手のひらをのせる。
やわらかい髪の上をそっと滑らせると、少年は飼い主に撫でられる猫のように、静かに目をつぶった。
そうしたら少し気が楽になったらしい。目をとじたまま口をひらいて、

「なんだか…さ。こうして当たり前みたいに二人でいると、…ふ、夫婦みたいだなって…思っちゃって」
その答えに一瞬あたまが真っ白になる。鳥のひとこえが妙に響く程の間をおいて。

「…っ!」
スタンは腹の底に力を込めることで、感情の熱波をどうにかやりすごした。
頭の血が沸騰して耳から出るかと思ったが。

「おまえは…」
天をあおいで片手で顔を覆う。
殺す気か、本当に。
ひとをさんざん翻弄したあげく、何だその殺し文句は。

「ご、ごめんね…へんなこと言って…」
少年はこちらの反応を見てあわてて謝っている。自覚なしか。この真性天然小悪魔子分め。

「…馬鹿者が」
低く呻くようにこぼすと、

「ごめんなさい…」
ただでさえせまい肩をすぼめてしょぼくれる。全然分かってないな、お前。
溜め息をつきたくなりながら。

「何を言うかと思えば…」
「うん…」
恐縮しきりで小さくなった体に、

「…おまえはとっくに余の嫁だろうが」
ぼそりと本音をぶつけてみる。そうでもしなければ分からんだろう、この鈍ちんが。

「うん…、…?…へ?」
反射的にうなずいてから、小首をかしげる少年に、

「…遅い、」
不敵に笑って身体を近付け、甘そうな色の唇を奪った。
桃色にもどりかけていた頬に、またぱっと朱が差すのを楽しみながら。

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