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御礼小噺7:彼の日常
今日も1日、目まぐるしい。
どやどやとスタッフが駆け回る中、彼も一緒に駆け回っていた。
時間がおしている。主演の女優が直前の仕事を早く切り上げられなくて、で、
こっちの撮影は件の女優が出演してないところから撮りはじめてはみたものの、
そんなシーンなんて数えるほどしかなくて結果女優の入り待ちってことに当然なってしまい────
もう朝からいろいろと計画がかき乱されて全員なにかしら忙しい。
暇そうなのは呼び集められたエキストラ。
そのうちの1人らしい着流しの青年が、
さっきから脇の椅子に座って全体的に騒然としるスタジオを眺めている。
・・・・・・あんな衣装の役ってあったっけ。
あったのだろう。普段着で着流しなんて普通着ない。
「────さん、入ります!」
機材チェックをやってた背後でそんな声が聞こえた。
振り返ると確かに遅れてた女優さんの到着だ。
「富野!」
「はい!」
逆方向からの呼びかけに焦って立ち上がる。
はずみで脇に置いてあった小道具にぶつかり、
辺りにぶちまけそうになったところに救いの手が差し伸べられた。
「大丈夫ですかい?」
さっきの着流しだ。
崩れかけた小道具を支えてくれている。
「あ、すいません!ありがとうございま、」
「富野!なにやってんだ?!」
「は、はい!」
呼びかけに焦って答えると、着流しの男は少しは笑って声のした方を示した。
「こっちは元に戻しておきますから、行った方がよくねえですか?」
「いやでも」
「暇ですからね、これくらいお安いものです。さ、どうぞ」
気安い笑顔でそう言われ、頭を下げてその場を離れる。
あとできちんとお礼を言っておかないとな、と考えながら走っていけば、
辿り着く前に怒鳴られた。
「本番入るから、磯前さん呼んで来い!あーもう、何やってんだよお前は!
ちゃんと回り見て動け回り見て!」
「すみません!」
誰もがぴりぴりしている。
多分、言われた文句にしても、言ってる本人ですら何に対しての文句かよくわかってないに違いない。
謝りながら回れ右して溜息をつく。今日は最初から最後までケチがつき通しかもしれない。
と。
スタジオを出ようとしたところで、また着流しの人と目が合った。
ちゃんと崩れた小道具は元に戻しておいてくれたようだ。
相手が先に頭を下げたので、慌ててこちらも頭を下げる。
・・・・・・いい人だなー。
普通に率直な感想を持って廊下に走り出た。
彼の一日はまだまだ長い。
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