THANKS FOR CLAP!  
   

「……全く、こういう時には抵抗と云うものを見せないのか?」
「本当に俺が抵抗しようとしたら死にますよ、ナイトメア様」
「それもそうだけれど」


背中には壁、向かいには上司。
呆れた表情を向けられるがその表情を見せたいのは私の方だという事を忘れていないだろうか。今までの教育の何が悪かったのか、一々思い返さなければならない。その度に酷い頭痛が襲ってくるのは全てこの人のせいだと言っても過言ではない。病気の癖に注射が嫌だ、薬が嫌だと子供のような実にくだらない理由で病院に行くのを嫌がる。更には煙草まで吸う。
しかし不本意ながらも仕事をこなす能力は高いと言える。役付きであるのだから当然と言えば当然だが、出会いからしてみて最悪だったのだ。仕方が無い。

小さな笑みが零れれば唇が唇に触れる。抵抗を期待しているのなら勿論此処で刺し殺す事など容易い。そう、あまりにも容易い。身を守るのにそれなりに長けていて、それなりの力を持っていたとしてそれでも自分とは決定的な違いがある。だから俺は殺せるし、きっとこの人は死ぬだろう。けれど刃は隠したまま。この人に向ける刃を俺は持っていないし、持っていたとしても錆付いて使えない刃。髪が揺れる度に光に触れては色を変える様が美しい。色の無い自分とは違って、綺麗で。透き通るような白い肌に差した影。自分とは何もかも違う創りの人間のように思われるも同じ人間であることには違いなくて。否、役目が違う時点で同じ人間とは言い難いのかも知れないが。頬を這う指はひんやりとしていて気持ちが良い。そして私がどんな風に行動するかを見つめる冷たい目も。深い闇が僅かに顔を出しているような瞳の奥に映るのを見るのが心地良くて、愉快で。自分が上だと満足し、馬鹿にしたような表情が堪らない。それでもそのまま思うようになる訳にもいかない、其れに何より面白く無い。だからそんな瞳に返すのだ、本当はいつだってお前なんか殺せるのだ、と。気持ちは全て伝わっているから全てを瞳に託す前に冷たい唇が触れる。ああまた、落ちていくのだ。虚構で塗り固められた不確定な場所から、俺はいつまでも抜け出せない。この冷たさに捕らわれて、この人に捕らわれてしまった。

「……ならいいんだ。従順な振りをして逃げ出そうなんて考えていなければ、いいさ」

わたしは紛いものです(Alkalism)



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