1.目が合って、堕ちた . . . ネギ×朝倉和美



彼が教室に入ってきたときにはもう、それは決定事項だった。

本当はメモ帳を持つ手が震えていた。
押し付ける質問の裏側で、声が掠れていた。
本来ならば有り得ない背丈の低さに、年齢に。――容姿。
その歳にして驚くほど整った顔立ちに、目眩がしていた。
軽々と鳴滝姉妹の設置した黒板消しを掴み、ロープを避ける。バケツの水などひっくり返さない。
悠々とした仕草に、一瞬息を呑んだのは確か。
落ち着いたところで彼の自己紹介がはじまる。
中性的でありながらも、通る声に耳を済ませた。
騒がしい教室内が静まり返るのはそうそうない。
きっとそれは誰もがその声に聞きほれていた、あるいはただ驚きに身を包んでいたか――どちらにしても、目の前の、自分よりも低い少年に、皆目を奪われていたのだ。
私はその例外ではない。
「ネギ・スプリングフィールドです。これからよろしくお願いしますね」
名前を記憶する。
それは紙になどではない。脳にひたと刻み込むのだ。
そして、湧き上がる喧騒のなかで、こっそりと口腔で呟く。ネギ・スプリングフィールド、と。
質問タイムに入っても、てを上げるのを何故か躊躇った。
周りの勢いに押されたのでは決してない。そんなものに負ける自分ではない。
「はい、それでは椎名桜子さん」
何故かご本の指に鉛の輪をつけられたように重い。未知の感覚だった。
だがそれも直ぐに溶けてなくなる。
自身の中で、更なる欲求が湧き上がる。
――彼と、ネギ、と名乗る少年と話がしたいと。
私は手を上げた。
すると運良く当てられた。
彼が私に目をやる。
「えっと、出席番号三番、朝倉和美さん」
「はっ、はい」
どもるのにも構わず、急いで立ち上がる。
彼の立つ場所と自分のいまいる位置とでは段差があるのに、彼は私を見上げる形になる。
その茶の瞳に、吸い込まれていきそうな感覚。
「ネギ先生は――」
これは二目惚れだということを、後に知る。

遠くから杖を背中に背負った少年がこちらに駆けてくる。
大声で、私の名前を呼びながら。いまだ苗字なのは我慢しなければならない。
「まちましたか、朝倉さんっ」
「ちょーっと遅刻。遅いよ、ネギ君」
「うう……ごめんなさい」
いつか名前を呼んでくれる日を期待して。
「じゃあ、いこっか」
荒れ狂う自身の胸を押さえたい。
そんな愚かな衝動を押し殺して、その手を彼に差し延べる。
年上の女性を演じてみせる。
「はいっ、行きましょう!」
取材と称して、彼とのデート。
空は快晴。後ろでさよちゃんが笑ってくれている。
それだけでいい。

第一印象なんて信じてなかった。
だけど、それに堕とされたのは、私。
一目惚れは、彼が教室に足を踏み込んだ時。


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拍手有り難うございます。
珍しく前向きな話。生徒以上、恋人未満てやつですか?実はネギ朝大好きです。
お題は『リライト』様から「きみを守りたい、十の御題」(のなかの5題)をお借りしました。



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