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06 

「ようこそ、我が部隊へ」

爽やかに、微笑む。
開けすぎでなく、かといって完全に閉じてもいない
丁度いい感じに開かれた口からは、真っ白な歯が
一部の隙もなく整然と並んで輝いている。

「…かんっぺきだ…。」

凌統が見とれながら呟くと、呂蒙と甘寧がそれにうんうんと頷いた。
確かに陸遜は完璧だった。

言葉と笑顔と共に差し出された手に、誰だって喜んで握手を返すだろう。
まだ初心な新人だったら、飛び上がらんばかりに喜んで、
この人に忠誠を誓おうと打ち震えるだろう。

「分かったか、甘寧。新人への挨拶とはこのようにするんだぞ。」

呂蒙が振り返ると、甘寧は決まりが悪そうに頭をかいている。

「だけどよお、おっさん。…俺にはちっとそいつは無理だぜ…。」

「無理無理と仰る前に、御自分で試して見られたらいかがです。
そもそも、甘寧殿は普段、どのように歓迎の挨拶をなさっているのです?」」

陸遜の言葉に、甘寧はバッと立ち上がり、その厚い胸板を
ひとつ叩くと、雷の様な声を張り上げた。

「オウ!よく来たな!!コレからよろしく頼むぜ!!」

「…最悪だな。」

うんざりしたような凌統の呟きに、今度は陸遜と呂蒙が同調してうんうんと頷く。
三人の反応を見て面白くないのは甘寧だ。
掴みかからんばかりの勢いで凌統に詰め寄る。

「てめっ、いい加減なコト言ってんじゃねぇよ!」

「はぁ?イイ加減じゃねえっつの。陸遜だって呂蒙さんだって頷いてたろーが。
この鳥頭。大体そんなだから、新人に逃げられンだぜ?」

あいかわらず斜に構えた凌統の返答に、甘寧はらしくもなく、ぐっと詰まってしまう。
いつもの甘寧ならここでニ三は言い返す。(そして乱闘になるのだが)
ところが今、ぐうの根も出ないのはそもそもこの集まりが、甘寧軍に配属される
新人兵卒の離脱率の高さについて、呂蒙が胃を痛めたことから始まったのだ。

それでちょっと陸遜に手本を見せてもらったはいいのだが、当の本人である甘寧が渋ってしまって
どうにも話が進まない。ぎゃあぎゃあ騒いでいるうちに刻限も迫ってきた。
今、戦況は膠着状態にあり、今夜は平穏を保っているとは言え、それでもここは戦場だ。
明日のことを考えればそろそろ休養をとらなければならない。しかしながら、その明日の朝に、
本国の首都より応援の兵士が送られてきて、甘寧をはじめとする主だった将の下に配備される。
最初の挨拶くらいは完璧にしておきたいのだ。

「あーもう、このままでは埒がアカンな。殿に言って
此度の甘寧軍への増強は見合わせていただくか…。」

「ええー!!ちょっそれはないぜおっさん!
俺ん所もだいぶやられちまってんだからよ、いい加減増員は欲しいぜ。」

「ならばその粗雑な挨拶だけでもどうにかせんか!」

呂蒙の雷に、ひょいと首を縮めると、甘寧はばつが悪そうに、陸遜、凌統、呂蒙の順で見回した。

「じゃ、じゃあ、軍師さんみたいにやってみる…ぜ…。」

「よしよし、はじめから素直にすればよいのだ。」

「そうそう。なに出し惜しみしてるんですか、早くやってください。」

「…まあなんつーか、頑張れー。」

一名の満足げな声と、一名の皮肉と、一名のやる気のない声援が甘寧を後押しする。ゴクリ、と喉を鳴らし、意を決して―…。

「よ、ようこそ、わが部隊へ。」

『………………。』

降りる、ひと時の静寂。

「…まぁ、何だ、明日も早いし、今日はここまでにするか。」

「あ、あー。そっそうですね!あ、呂蒙殿、幕舎までご一緒させてください。」

「お、俺ももう帰るわ!」

皆が泡を食ったように次々と立ち上がる姿に、もっとあわてたのは甘寧だ。

「おい、ちょっと!俺の挨拶はどうなんだよ!?」

「……人には向き不向きがあるって、いい教訓になったぜ。アリガトな、甘寧さんよ。」

しみじみ。といった口調で凌統が甘寧の肩を叩いたのを皮切りに、みんな次々に甘寧の幕舎から出て行ってしまった。

「え、ちょ…待てよ…え……。」

後に残されたのは、甘寧の困惑の声と差し出さした虚しい右手。

さて、翌日の部隊編成挨拶がどうなったのか。
呂蒙の胃薬の残量が、全てを如実に物語っていた。









新人紹介は頭が痛い。











お題拝借→愛してるなんて言えやしない

















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