アイスクリーム(忍岳)



甘いものが好きだ。頭の中まで糖分で埋まってしまうくらいの、 濃いやつが好きだ。濃厚なソフトクリームとか、餡蜜とかシュークリームとか、たまらない。

「おいしそう…」

ケースの中には色とりどりのアイスクリーム。 食べたことのない新作も出ていて(いちおう、チェックしていたつもりなんだけれど) ガラス張り付いてうっとりしていたら、涎が垂れそうになった。あぶないあぶない。

「どれがええの。兄ちゃんが買ったるわ」
「…イチゴミルクとイチゴバナナと、ストロベリーチーズケーキ」
「苺トリプル!?」
「だめ?」
「いや、別にええけどね」

そう言うと侑士は、さっそく店員におれの注文を伝えに行った。 カップに致しますかコーンに致しますか?
店員の質問に、おれはすかさずコーン!と口を挟む。 入れ物まで食べられるなんて最高じゃん!
しかしこれは、侑士には到底理解しがたい意見であるらしいのだ。

「ほら、岳人。」
「さんきゅ!」

三段重ねになった希望通りのアイスクリームと、小さめのスプーンが手渡される。 おれがきらきらと目を輝かせると、侑士は笑った。

「なに」
「いや、ほんまに毎回嬉しそうにするなあ思っとっただけ」
「そりゃ、だって、嬉しいからな」
「岳人、かわええね」
「もうお前のソレも慣れたぞ」

初めのうちはやたらめったら赤面して動揺して、 余計にこいつを喜ばせてしまったものだが、 今となっては、どんなに甘い台詞を囁かれても普段通りに受け流せる自信がある。 忍足侑士とはこういう人間なんだと、受け入れてしまったせいもある。

「最近岳人冷たい…。」
「べつに。」


そんなこんなで下らない話をしている間に、とうとうアイスクリームは溶けだした。 焦ったおれは早足になり、侑士も足を早めて隣に並ぶ。
さっさと食ってしまおうとスプーンを突き刺すと、今度は一番上のアイスがグラリと傾いてしまった。

「あ〜!」

落ちそうになったところを、咄嗟に手で掴む。
熔けかけたアイスクリームのとろりとした感触が肘を伝い、おれは顔をしかめた。

「もったいねえ…」

なにしろ一口も口にしていないのだから。コーンに残った二つのアイスクリームも、いつの間にやらダラダラと流れ出ている。 おかげで両手はクリームだらけのベタベタだ。

「なにしとんの…」
「こっちが聞きてえ」
すると侑士は、呆然と立ち尽くすおれの右手を掴んだ。 肘から指先までを、赤い舌が這ってゆく。
変な気持ちだ。
その間にもコーンから滴がポタポタと落ち、タイルを叩く。

「甘いな」
「そりゃそうだ」
「あんまり美味くないな」
「んじゃ舐めんな!おれも食ってないのに」
「岳人を食いたい」
「死ね!」

ベタベタする、と言ったのに、それでも良いからどうしてもと侑士が駄々を捏ねたので、手を繋いでマンションまで帰った。結局アイスクリームは流れていってしまったけど、侑士が替わりにコンビニでハーゲン.ダッツを買ってくれたから良いとしよう。
しかしそもそもの原因は侑士だとおれは思っている。だってあんなに余計なことばかり話すからだ。
侑士の家で食べたハーゲン.ダッツはそれはそれは甘かった。それこそ、脳髄まで染み込んでしまいそうなほど。
 
 


なにか一言頂けると喜びます。 返信が不要な場合は始めに「☆」を付けてください。
拍手ありがとうございます!
 





あと1000文字。