西暦20xx年。
日々進化する世界の中で、変わらないものは何もない。
そう、人間もその1つだ。

「超能力」。

恐らく誰しもが一度は耳にしたことがあるであろう、この言葉が世に溶け込んで早数年。
とは言っても、超能力そのものの歴史は意外と古く、かのナントカ革命もカントカ乱も裏では超能力者(エスパー)の存在があったと噂されている。
しかし、所詮は空想上のものとされていた。
否、実際は世のエスパー達はその力を隠しながら生きることを余儀なくされていたのだ。

それがどうだろう。
現代は人が空を飛ぶことも、念力で物を破壊することも、未来を予知することも、さして珍しいことではなくなった。
10人に4人の確率で、僅かながらも超能力を持っている、もしくはこれから覚醒するであろうという世の中で、
特に強いレベルの能力を持つ人々を集めた組織、それが国家超特務組織「S・E・E・D」だ。
通常超能力はレベル1〜レベル7までの各段階があるが、S・E・E・Dに登録されている者は全てレベル5以上の選ばれた者達のみ。
ある者は念動能力(サイコキネス)でクレーン車を軽々持ち上げ、ある者は接触感能力(サイコメトリー)で遺品から事件の真相・犯人を割り出す。
能力者それぞれの特化した力を最大限に引き出すことで、日々警察や消防等では対応しきれない任務もしくは協力をしているのだ。

また、政府直下の組織の為、場合によっては給料等の待遇が政府高官を凌ぐほどであると同時に、任務は過酷・危険を極めることがある。
だからこそ、必ずチームごとに超難関の国家試験をパス・もしくは選別された指揮官が置かれ、能力者が任務遂行中に力を暴走させたり、
力を使って世界そのものに危害を加えようとする行動を阻止する規定が盛り込まれた。

超能力者(エスパー)の中の超能力者。
これはそんな人々が集まる組織の中の一人と、その指揮官のお話。






絶対指揮官!だから負けない!






「…サイキックー!車の吊るし上げー!!!!」

都内某所のトンネル内の事故現場にて、入口付近の車が次々宙に舞い、現場から数キロ離れた地点まで飛ばされる。
その数、目で数えただけでも15台あまり。
人智を越えた能力に、同時並行で救助や捜索に当たっている警官や消防士達は唖然としていたが、当の本人はさもクレーンゲーム感覚で車を飛ばしていた。

「カガリ!!任務で遊ぶんじゃない!!!!真面目にやれ!!」

すると、年若い青年が今まさに車を飛ばしているエスパーの少女に向って叫んだ。
カガリと呼ばれた少女も、その声にすぐ様反応はしたが、顔をちょっとしかめるだけであとは変わらない。

「分ーかってるよ!アスラン!やればいいんだろ、やれば!」

そう言うなり、持ち上げた車をぽいっと投げ捨てるように飛ばす。
既に車内に人はいないが、その行為が危険か危険じゃないかの判断は幼い子でも分かるだろう。

「な゛っ……」

あわや大惨事、誰しもがそう思った瞬間に飛ばされた車は地面すれすれで止まり、ゆっくりと地面に下ろされた。

「な!ちゃんと出来てるだろ!私だって!」

地上5m付近まで体を浮かせている(というより、飛んでいる方が近い)、カガリは得意気に腕を組んでみせる。
しかし、その瞬間に”ぶちっ”と何かが切れる音がした。


「…ふっっざけるな!!!!!!」

そう、それは青年が、カガリの指揮官がありったけの声で怒鳴ったのと同時に。


「それのどこが真面目だ!!…もういい、今すぐここへ降りて来い!!!命令だ!!」



息を切らし、肩を上下させる程叫んでも、まだ青年からの怒気は静まることはない。
その姿に再び現場の警官や消防士達は目を見開く。
任務直前まで、若干20歳ながら冷静沈着・的確適所の評判通りの青年が、あんなにも激を飛ばすとは予想もしなかったのだろう。

指揮官命令にはもちろん逆らうことも出来ず、カガリはするするとゆっくり地上に降りてきた。
気のせいだろうか、表情は未だ勝気だが、まるで叱られた犬のように耳や尻尾が垂れているようにも見える。
とん、とアスランの前に降り立つと、すぐに噛み付いた。

「お、怒られる筋合いはないぞ!きちんと任務は遂行しているんだから、ちょっと遊び心ぐらい入れただけじゃないか!!」

自分でも気付かない内に、体は少し震えていたが、それでも大人しく謝る気は毛頭なかった。
だが、肝心のアスランはカガリを無表情で見るだけで、何も言わない。
腕を組み、睨む訳でもなく、もちろん微笑む訳でもなく、ただ無表情だった。
身長差もある為、それだけでも……威圧感がとんでもなく感じる。
つまり、これは。

本気で怒っている。


それが分かった瞬間、カガリは背中から一気に体が寒くなる思いだった。
正確には心から、の方だけども。
時間にしてほんの数秒、カガリにとっては何時間にも感じた間の後に、アスランが着ていたスーツポケットから万年筆を取り出し、キャップを外す。
突然の行動にカガリが何事かと目で追うと同時に、アスランは勢い良く、自身の手の甲に万年筆を刺した。
すぐさま、傷口から血が滲み出る。

「…アスラン!!お、お前何やってんだよ!!」

「……カガリ、誰だって怪我すると痛いんだ。血だって流れる。」

ぽた、ぽた、とアスランの手から流れた血は、地面に赤黒い染みをつける。
その姿に、いよいよカガリの体も大きく震えた。

「そ、そんなの分かってる!でも、なんだってアスラン、お前が……私じゃなくて……」

体を震わせながら、顔を俯かせ、じわりと視界を歪ませる。
その一言に、無表情だったアスランの顔も一瞬歪んだ。

「けどな、痛いのは怪我した人間ばかりじゃない。現にカガリ、お前だって痛いだろ?ここが。」

そう言って、アスランは自分の胸をぽんぽん、と叩いた。
カガリも、はっと顔を上げ、改めて怪我したアスランの手を見つめる。
…すごく、痛い。
胸の奥がまるで締め付けられるようで、自分で怪我したときよりも辛い痛みなんじゃないかとさえ、感じた。

事故現場の人々は確かに救出した。
しかし現場にいる警官、消防士がこの危険な現場で怪我をしたら、その傷の連鎖はどこまで広がるんだろう。
大事な人、守りたい人が傷付くことは、その周りの人にも傷が残る。
それもなかなか治りにくい、傷が。

「こういう思いをしている人々が大勢いる現場なんだ、俺達の仕事場は。だからこそ、重要な任務なんだよ。」

「…うん。」

こく、とカガリが頷くのを確認すると、アスランはようやく表情を穏やかにして、ぽん、と怪我をしていない方の手でカガリの頭に触れた。

「それが分かったなら、今日の任務は終了だ。傷の手当をしたら、S・E・E・Dに戻るぞ。」

「あ、うん。でも……まだ帰れないよ。一応…その、皆が安全に帰れるまでは手伝わないと、な?」

気恥ずかしいのか、カガリは手をもじもじさせつつ、一度上げた視線を再び横にずらしてしまった。
その行動に、アスランもカガリに触れていた手がぴく、っと離れる。

「ま、アスランの手当てが先だけどな!」

うん、と自分で納得したように頷くと、カガリは久々に持ち前の笑顔を取り戻して、アスランに微笑みかけた。
そうしてアスランの怪我をしていない手を掴み、救急車へと走る。
カガリのその行動力と明るさに、ふ、と心が救われるような思いが、アスランの中で確かにあった。











(「なんだってアスラン、お前が……私じゃなくて……」か。)


エスパーだからといって、怪我をしない訳じゃない。
治りだって、ノーマル(普通の人間)と一緒なんだ。

俺よりも色んな”怪我”をしている君が、どうして俺の傷まで背負うとするのか。
今迄散々傷付いて、誰よりも痛みを知っている君が。



それなら俺は……
君の指揮を取り、カガリが”傷付かないように”、精一杯守るよ。







*オマケ*

〜S・E・E・Dの医療室にて〜

「なんだよアスラン、この傷!まるで万年筆で刺したような後は。」

「うるさいぞ、ディアッカ。どうせ今俺の手を触って、怪我をした時の状況を読んだんだろ?だったらさっさと治療してくれ。」

「いや、まぁ大体は読めたんだけどさ。…それにしても、いくらカガリちゃんの指導の為とはいえ、なぁ……」

「…何が言いたい。」

「アスランって、ひょっとしてドM?」

「お、俺はそんな趣味じゃない!!」



(趣味、というよりも本質の問題なんだけどなぁ…。)



--続く?




基本的に私が描くアスランはドSのドMです。
個人的には続きが描きたい、絶対可憐チルドレンパロシリーズ!
言うまでも無く、薫=カガリ、皆本=アスラン、賢木先生=ディアッカです。
既にキラの位置は決めてあるけど…果たして?!(笑)
拍手ありがとうございました!


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