ぱか、ぱか、と歩行者信号の青色が点滅している。
私はそっと目を閉じてみる。
瞼の裏側で、赤色が火のように瞬いては消えて、を繰り返す。
瞼を一枚通すだけで、青信号は赤い火へと姿を変えてしまうことを知って、私はまた瞼を開く。
点滅していた信号は赤い光へと変わってじっと道を睨んでいた。
まるで私の瞼の裏の赤い火が、そこへ乗り移ってしまったかのように。

横断歩道の向こう側では彼が、こちらを見て立ち尽くしている。
夜も更け日付が変わりそうなこの時間帯は、私と彼とを隔てている片道二車線の道路を通る車は疎らだ。
渡ろうと思えば容易に渡って来れるはずなのに、けれど彼は渡らない。こちらにはやってこない。

遠くで騒々しいエンジン音が聞こえて、駆け抜けながらフェードアウトしていく。

ぱっ、と赤信号は一瞬の間に息を潜めた。代わりに青信号が闇に沈んだ辺りを照らす。
私も彼もその指示には従わないのに、それでも信号は律儀に自分の役目を全うする。
道路脇の植木の葉が、信号機の光で何色とも言い難い不気味な色に染まっている。

渡ってくればいいのに、と思う。
ここまで追ってきたくせに、何を今更躊躇うことがあるだろう。
そう考えて気付く。
私は追ってきて欲しいのだろうか、彼にこちら側まで渡ってきて、そうして何をして欲しいというのだろう。
ぱか、ぱか、と青信号は再び点滅を始めた。
もしもこの信号機のこの律儀な点滅が終わるまでに彼がこちらへやってきてくれたなら、緑の光が青だと呼ばれる由縁くらいは教えてもいい、と思った。



明滅する、瞼の裏の


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