*ジェイティア





そのしろいひふをながれるまっかなけつえきがうつくしいとおもった。



刃物できずつけられた直線的で細いラインから血管の中を流れる血液が溢れ出して来て、白に彩りを添える。僅かな傷、しかし微かな痛みは途切れることなく彼女の神経を刺激し、無意識に眉間に皺を寄せる動作を自動的に促すのだろう。黙ってみていれば、ほら、やはり。赤い指先を、顔を顰めて見て、そしてそっと浅く口内に入れて舐め取る仕草。鉄の味が広がったのか、赤が消え去った指を見ながらなおも渋い表情をしている。唾液で濡れた指先がてらてらと光った。それが、ひどく官能的に見えて。



「ナイフの手入れをしていて怪我をするなんて、不注意ですねぇ」



声をかけると、まわりに人が近づいていることも察知出来ないほどぼんやりとしていたのか、彼女はびくりと肩を震わせてから振り返った。驚いたようにゆっくりと目を瞬かせている。



「大佐・・・・・・いらっしゃったんですか?」

「ええ。今、来たところですが」



言って、微笑む。いつから自分は、仮面をいとも簡単につけられるようになったのだろうかと考えながら。


「気をつけて下さいね」



そう、気をつけなければ。



無意識に手を伸ばしていた。そして、彼女の頬に触れる。このまま少し下に手をスライドさせて力を込めれば――そう考えて、内心で、笑う。可能か不可能かではなく、実行するか否か。事態は思っていたよりも好機であり、感情は予想以上に自己中心的、ブレーキはといえば、ひどく効き難くなっていた。つまるところ、今がチャンス、ということ。



「・・・・・・大佐?」



何か、と気の強さが窺える瞳が言っていた。



「いえ、何も」



ああ、これがストッパー代わり。潔く手を引っ込める。

ただ、白い肌に映える赤だけが鮮明に脳裏に焼きついた。





end





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