「へぇ……」

「わぁ……」

「どうしたん―――ってうわぁ!」

部屋に戻ると、二人が額を寄せ合うようにして何かを覗いていた。

それはまぁ、何というか。

言い逃れし辛いものであるわけでして。






まぁ、それはつまり。






エロ本。









このみとタマ姉も襲撃は今日も突然だった。

特に何か約束をしたわけじゃない。単に暇だったから、という理由であがり込んだ二人を追い返す理由もないし、実を言えば俺も暇を持て余していたからありがたかった。

勿論、タマ姉がいつもみたいに俺を振り回すんじゃないか、なんて思ったりもしたけれど、今日は雄二もいないからそんなに大変なことにはならないだろうし。

兎に角、雄二を除いていつもの顔ぶれが集まった。タマ姉とこのみを部屋に通して、適当に飲み物とお茶菓子を見繕った。

雄二といえば、別に見たわけじゃないけどスキップをして家を出て行ったに違いない。

もう何週間も前から楽しみにしていた緒方理奈のイベント。今日はその当日で、きっと今日朝イチ、いやもしかしたら昨日の内に家を出たかもしれないな。

有明のマンガの祭典じゃあるまいし。まぁ、あれは徹夜禁止らしいけどさ。

……ていうか、イベントは完全抽選で、事前の抽選に受かった人しか入れないらしく、チケットを持ってる雄二は時間までに行けば十分間に合うと思うけど。

……ちなみに。チケットの抽選には俺も借り出された。全く興味が無かったけど、何故か当選してしまった。

雄二は外れたらしく、当たったことを教えると飛び跳ねて喜んだ。

当然色付きで譲ったけれど、雄二は色に更にオマケをつけて(半ば強制的に)置いていった。




で。

それが、エロ本。

俺だって健全な高校生。生身の女のコが苦手だって、そういったことには当然興味がある。

だから見つからないようにベッドの下―――だと定番なので、ベッドのスプリングの下に挟んでおいた。そんなところは絶対に誰も調べない……はずなのに。



「あら、タカ坊。これ、なーんだ?」

「うわわ、タカくん、えっちだね〜」

「ち、違うぞ!? それは雄二の奴が勝手に置いてっただけで―――」

「あら、それじゃあタカ坊はこういうの、興味無いんだ?」

「そ、それは……」

即座に反論できないのが悲しい。男の性ってやつだ。

「第一、ホントに興味が無いんだったら、捨てればいいだけだものね」

「ぐっ……」

「隊長、えろえろであります」

良いように弄ばれてる……っ!? というか、このみにまで見られたのは恥ずかしい。恥ずかしすぎるっ!
 ああ、家族に隠してたエロ本が見つかるのってこんな気持ちなんだろうか!?



「べ、別にエロ本なんていうほどエロくないぞ」

これは事実。

雄二もタマ姉の監視下に以上、以前のように自分の楽園を維持できる訳が無い。本人曰く秘蔵の品を残して後は泣く泣く処分したとのこと。

で、雄二が置いていったのはそんなに過激なものではない、水着姿のモデルがポーズを取っていたりする程度の代物。中には際どいものもあったりするけど、それでも全年齢対象版だ。

間違っても18歳未満お断りのコンビニ棚に置いてあるようなものじゃなくて、本屋に行けば普通に手に入れられるような写真集。

とはいっても、タマ姉に見つかったのはヤバい。雄二みたいに地獄を見るのは正直勘弁だ。

内心冷や汗を掻いていたけれど、意外にもタマ姉は微笑みをむける。ただ、あの目は何か企んでる目だ。

「そうね―――タカ坊も男の子だから、大目に見てあげましょう。その代わり……」

「はいなんでしょう」

「雄二。あの子、何処に隠してるのかしら?」

何を、とは問わない。

「本棚の裏の隠し棚と、机の引き出しの二重底、あと箪笥をずらした下の床底」

「……そう。ありがと」

すまん、雄二。俺も自分の身が惜しい。線香の焼香くらいはしてやるから、恨むなよ。

「わわわっ!」

「ってこら、このみ! いつまでも見てるなっ」

お子ちゃまにはまだ早い。……というか、このみに見られているのが恥ずかしい。

手にしていたエロ本(全年齢対象)を取り上げようとするも、その瞬間タマ姉が伸ばした手にひょいと攫われてしまう。

「でもそっか、タカ坊も色を知る年になったのね」

「……前にもそんなこと言われた気がする」

タマ姉はおもむろにページをぱらぱらと捲り始める。

……何だ? なんか嫌な予感。タマ姉がこっちを向いてニヤッと口の端を歪める様にして笑った。

「タカ坊はどんなポーズがお好みなのかしら?」

そういいながら、タマ姉が手元の写真集を眺めてポーズを真似る。

……いやいやいやっ! それは似合いすぎだって、タマ姉っ!

しなやかな肢体をくねらせて四つんばいになり、背中を反らせる。妖艶な瞳で見上げるそのポーズは、女豹のポーズって奴じゃないか!?

ヤ、ヤバい……。いろんな意味でヤバい。

王道だけど、タマ姉にはそれがハマりすぎてる。元々スタイルが良くてモデル並みなのだ。本で見ているだけでも扇情的なポーズなのに、生で見上げられるだけで迫力が段違い。

無意識のうちにあんなところやこんなところに視線がいってしまって、慌てて視線を宙に泳がせる。からかわれているのが分かっていても、赤面せずにはいられない!

「ねぇ、タカくんタカくん」

藁をも掴む心情で、このみの声に救われる。

そこに待っていたのは、天国なんかじゃなかった。

「こんな感じかな〜?」

このみは頭の後ろで手を組んで座っていた。真っ直ぐと背筋を伸ばしている姿は、本当なら色気なんて感じないんだけど、タマ姉の姿を見た後だと変な方向に意識がいってしまう。

なんていうか、その、腕を頭の後ろで組むことで服が張っていて、……む、胸の膨らみがっ!



駄目だ河野貴明。

落ち着け、冷静になるんだ。

このみに異性を意識したら、これから顔が合わせづらくなるだろ?

さぁ、深呼吸だ。

1、2、3、4。

ゆっくりと目を開く。そう、そこにはいつも通りの世界が広がって―――。





「ええと、これはどうやるのかしら?」

「タマお姉ちゃん、すごーい!」




……なかった。

そこはまさに男の妄想世界―――。

本を片手に色々なポーズをとってみては試行錯誤するタマ姉。このみもそれを楽しんで笑っている。

段々自分が楽しくなってきたらしく、このみの反応をみて遊んでいる。

傍からみたら、これ、結構凄い光景なんだろうな……。

「こら、タカ坊。タカ坊の為にこんなことしてるんだからね。どれが好みなのか、とっとと白状しなさい!」

「勘弁してよ、タマ姉!」






……結局。俺の純情な男心がボロボロに傷つくまで、洗いざらい吐かされた。

汚れちまったよ、俺。雄二、ごめんな……。

大切なものを、無くした気がする……。

抜け殻になった俺は、その地獄の一日が終わることを早く祈ることしかできなかった。合掌。




拍手御礼SS第四弾。
うたわれるものだけだと東鳩2を目当てに来てくれた方にも申し訳ないかな、なんて思って執筆。勢いに任せて書いたので内容は保障しませんがw
貴明がどんな風に汚れたのか、それはご想像にお任せしますw
それでは、拍手ありがとうございました!




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