* 10 YEARS AFTER *
 
 
 
 
 
 
 夏空を仰ぐと、細身の飛行機が青の頂を高く駆け上がるところだった。熱い風に煽られた長いブロンドを押さえながら、ルーシーは鈍色の機影を視線で追いかける。余程期待外れの表情を浮かべていたのか、傍らの青年が思わず小さく吹き出した。同じことを考えていたはずの友人の裏切りに唇を尖らせながら、ルーシーは答えた。
「もっと速いわ」
「そうだね。それにもっと黒い」
 したり顔の答えが返り、ルーシーは呆気に取られたが、一瞬の後に二人で顔を見合わせて笑う。眩く弾ける昼の光を遮りながら、デヴィッドは少女の数歩後ろで空を見上げた。二人の遥か頭上を、先行の一機を追いかける形で銀色の編隊が駆け抜けていく。
「あれは戦闘機?」
「多分。遠いし、詳しくは判らないけど。昔、母さんを手伝ってくれたのと同じタイプかも」
 言いながら、デヴィッドは傍らの横顔を視線の先で伺う。アイスブルーの瞳が、幼い頃と変わらず真っ直ぐに空を見上げていた。
「最近、見ないよね」
「そうね」
 ルーシーは頷く。短いやりとりでも、何のこと、誰のことかは、お互い確かめるまでもなかった。
「最後に聞いたのは、いつだったかな」
「ずいぶん前。でも、スピンが前よりもっと上手くなってたわね。歌もダンスも、今頃はJみたいに出来るんじゃないかな。あの頃のJみたいに。ね」
 言葉を切る。幼い記憶を呼び起こすと、自然と表情が綻ぶ。その笑みのあまりの穏やかさに、デヴィッドは思わず言葉を詰まらせた。
「最近、見ないよね」
「うん」
 繰り返された問いに目を伏せ、ルーシーは頷く。
「でも、いいの」
「……ルーシー」
「世界の何処かでは歌ってる筈だし、それに大好きな人達には、辛いことも哀しいこともなるべく起きずにいて欲しいもの。あの人達に会えないのは、私の周りの人達にも私にも、今は何の試練も無いっていうことだから」
 ルーシーはデヴィッドに振り返った。長いフレアスカートの裾が翻り、すらりと伸びた背丈が時を感じさせる。ここからでは聞こえない歌に耳を傾けるような、或いはまるで祈るような仕草で青い瞳が俯いた。彼らから貰った奇跡を思い出す度、どんな苦境も何度でも超えていけると思う。
 その強さのまま生きていけば、彼らとは永遠に逢うことはないのかも知れなくとも。
「どうしてもだめだと思ったら呼ぶから、いいのよ」
 そう言うと、デヴィッドが押し黙った。俯いた表情がそうだねと短く答え、かつて共に危機を乗り越えた青年に、ルーシーは大人びた眼差しで微笑み掛ける。
 鈍色のシルエットがひとつ、青く抜ける夏空を割る。幼い記憶と重なる最後の機影が、白い澪を描いて飛び去っていった。
 
 
 
 
 
 
 
 
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例の侵略事件後ルーシーとデヴィッドとテッドはお互い
仲良くしながら大きくなってるとかわいいなあと思いつつ。
(実際にはお互いめっさ離れてますがそこはそれ)
クリスマス話は失敗エンドも(すごい切ないんですが)
17歳ルーシーが美人に育っていて失敗画面にしとくには惜しいのです……。
EBAは多分公務員な立場だと思うんですが、呼べば来てくれるけど
会おうと思うと会えない位の距離感な印象があります。


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