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悪魔と吸血鬼の話

「なあ、ウィオラ」
「何」

 やれやれと思いながら目線を向ける。
 こういう呼ばれ方をした場合、続くのは大抵、何らかの質問か、おねだり事だ。
 とはいっても、カラマトゥは妙なところが慎ましくできているらしく、ねだるにしても大した要求をしてきたことはない。
 今夜は何だと耳を傾ける。

「この星の花って、花言葉はないのか?」

 どうやら質問のほうらしい。さて、どう答えたものかと考える。
 即答しなかったことで、不信を感じたのだろう。ぐいとカラマトゥの顔が近付いた。

「知ってるんだな?」

 宝石のようにきらきらと光る青い目が至近距離から、こちらの目を覗き込んでくる。

「何も言ってないけど」
「お前はないならないって即答するし、あるならあるで即答するだろう。そんなにひどい花言葉がつけられてるのか……?」

 教えないのは口に出すのを躊躇うような花言葉がつけられているからだと考えたらしい。
 こんなに綺麗なのに、と星明かりに咲いている花を見下ろす。
 悄然と肩を落とされてはかなわない。諦めて口を開いた。

「別にそういうわけじゃない」
「じゃあ、ちゃんとした花言葉があるのか?」
「……一応、ある」
「何て言うんだ」
「……西方の国に昔から伝わってる歌がある」

 Something old,
 Something new,
 Something borrowed,
 Something blue
 And a sixpenc in her shoe.

「ちょっと前に、とある王立植物園の筆頭庭師が南の国を旅して、見つけた花を本国へ送った。その内の一つがこの花だ」
「……今の歌とどう関係があるんだ?」

 澄んだ目で小首をかしげられて、いよいよ観念する。
 どうも、この目の前では嘘がつけない。

「さっきの歌は幸運のまじないなんだよ。古いもの、新しいもの、借りたもの、青いもの、それから六ペンス硬貨。その国では、この五つを身につけた花嫁は幸せになれると言われてる」

 その説明で何かしら察したのだろうか。
 青い目がきらきらといっそう輝き始める。

「それで?」
「青は生神女(聖母マリア)の色で、誠実さをあらわす色でもある。それでつけられた花言葉は……」
「花言葉は?」

 わくわくと問い詰められて口ごもる。やはり言わずに済むものなら済ませたい。
 だが、ここで引く蝙蝠ではない。

「ウィオラ」

 ずい、とまたもや顔を近付けてくる。

「素直じゃないのは、お前の悪いとこだぞ」
「だから、俺は悪魔だっつってんだろ」
「それでもだ。さあ、花言葉は何なんだ?」

 詰め寄られて、今度こそ諦めた。

「幸福な愛。もしくは、信じ合う心」

 告げた途端に、夜空の星のように青い目が煌めいた。

「お前は知っていて、この花を贈ってくれたんだな」

 その問いかけには答えない。だが、カラマトゥは気にすることもなく花が咲くような笑顔を見せた。

「ありがとう、ウィオラ。最初の時も嬉しかったけど、今のを聞いたら百倍嬉しくなった」
「……お前は安すぎ」
「安くないぞ! お前が俺のために摘んできてくれた花なんだ。どんな気持ちで贈ってくれたのか、ちゃんと分かって嬉しいんだ」

 そう臆面もなく言い切られてしまうと、返す言葉がない。ふぅん、と応じるのが精一杯だった。

「大好きだぞ、ウィオラ」
「はいはい」

 ぞんざいに返して青い花を眺める。
 季節に合わず、そこらの温室にもない花を探すのは手間がかかったが、嬉しいと喜んでくれたことですべて報われたような気がした。
 今もカラマトゥは嬉しそうに小さな花を愛でている。
 その姿には、やはり薄青の優しい花がよく似合った。
 視線に気付いたのだろう。カラマトゥがこちらを見る。

「何だ?」
「何でもねえよ」

 いつまでもそんな風に笑ってくれていたらいい。
 そんな柄でもないことをまた思いながら、晩秋の夜空を見上げた。




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from STUDIO〔jing〕

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