日数にすれば、凡そ七三○日。時間に換算すれば、単純計算で一七五二〇時間。多かれ少なかれ変動はあるが、それが、残酷なまでにはっきりと定められた期限である。
二年間という寿命の。
それを長いと感じるか、短いと感じるか。
少なくとも人間の一生に関して人生五○年などと詠われているのだから、それと比較すれば遥かに短く思えるかも知れない。
尤も、それを悔やむ余地などないのだ。
生きて生きて生き続けて、その生命散らすその時まで、自分達は前に進まなくてはならない。
いつの日にか、この短命の呪いと種絶の呪いをかけた朱点童子を降して、そして……
そうして、その時には、自分の存在など影も形もない。
それでも進んでゆく。進み続けてゆく。この過去を、確かに未来へと繋げるために。
「――当主様?」
小間遣いのイツ花の呼びかけに、ハッと当主は我に返った。
「そろそろ日も暮れますし、お屋敷の方に戻られてはいかがですか」
身体に障る……とははっきり告げなかったが、言外に当主である自分の体調を気遣っているのは明らかであった。
「そう……だな、ではせめて、縁側で待とうか」
それでも当主は屋敷の中に帰る、とは、安易に首肯を返さなかった。
今日は何しろ、大事な息子が初陣から帰還する日であったから。
先の二ヶ月間、手ずから指導して来た。潜在能力は、自身よりも遥かに格上。さすがは彼女の――彼の女神の、息子。
兄の交神の際、一度だけ垣間見た麗しい女神にときめいたのも、今は昔。属性を考えれば別の女神との交神を行うべきであったろうが、……当主権限で、断行した。
それを後悔してはいない。
彼女との、たった一度きりの邂逅。その、愛しい証。
その存在がただ、彼の、未来を紡ぐための活力であった。
自分達は、これまでも、……多分これからも、多くのことを望んだりはしない。
ただ、この自分の屍を越えてゆく、愛しい子供達の未来が欲しい。それだけである。
縁側に座布団を敷き、彼は大切な子供達の、無事な帰還を待ち侘びる。……この手足が冷たいのは、きっと冷え込んで来た夜風の所為。
「お帰りなさいませ! 当主様が縁側でお待ちですよ」
やがて騒がしく、門の方角から足音と装備をぶつけ合う姦しい音が聞こえる。
「父上、今帰りました!」
「ああ……おかえり」
当主は優しく相好を崩した。
ああ、これで自分の役割は終わったのだ。その先を見守れないことは確かに寂しいが、きっと彼等は、この先の未来を掴み取ることだろう。例え、この世代で成し遂げられずとも、そう遠くない時代に必ずや。
愛しい子供達の笑い声を聞きながら、幸せそうに微笑み、当主は静かにその瞳を閉じる。
その耳に、遠く遠く――懐かしい女神の声を、聴いた気が、した。
「いつか、きつと、願いは叶うのよ」



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