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目覚めは唐突だった。目を開けると、頭はすっきりとしていた。そして、時計を見ようとしたが体が動かないことに気付きバーナビーは自分の体の状況を把握した。体に、虎徹の腕が巻き付いている。ゆるい拘束に思えたが眠っているせいで力の抜けた虎徹の腕は思いのほか重たく、容易に動かすことができなかった。時計を見ることは諦めるしかなかったが、見ることができなくてもそれほど困らなかった。バーナビーは、大体毎朝同じ時間に目が覚めるからだ。それもかなり余裕を持った時間に目覚めるように体ができている。きっと今日もいつもと同じくらいの時間なのだろう。
しかし、時計を見ることができないのはいいとしても身動きが取れないというのはなかなかに辛いものがあった。無理矢理はねのけることができないわけではない。だが、眠っている虎徹を起こすようなことはしたくなかった。そう思ったバーナビーはしばらくはこの身動きの取れない状況を甘受してみることにした。けれど思ったよりも長くは続かなかった。二度寝でもするつもりならまだしも完全に起きている状態でこの状況というのはどうにもむずむずしてしょうがないのだ。動きたくてたまらなくなってくる。とりあえず横を向いていた体を少しずつ動かしてみることにした。虎徹は起きる気配もなく、体に回された腕が動く気配もなかった。ようやく仰向けになることのできたバーナビーはほっと息を吐く。顔だけを動かして虎徹の方を見てみると、なんとも穏やかな顔をして眠っていた。嬉しい、と素直に思う。もっとちゃんと見たいと思いバーナビーは再び体を動かした。今度は横向きに寝ている虎徹と向き合う形になった。思ったよりもずっと近い距離は寝息さえも聞こえるほどだった。規則正しい寝息は乱れることなく続き、寝顔も穏やかなままだった。そうやって眠る虎徹を眺め続けていたバーナビーだったが、流石に見ているだけというのも些か退屈になってしまいどうしたものかと頭を悩ませた。一番いいのは虎徹が起きてくれることなのだが、おそらくまだ起きないだろう。僅かに見える時計はまだ朝早い時刻を表示していたからだ。


「おじさん」


ぽつりと呟いてみたが虎徹は起きることはなかった。分かっていたことだがつまらないと思ってしまう。


「……虎徹さん」


呼び方を変えてみても虎徹は起きてはくれなかった。名前で呼べといつも言っているくせになんで起きないんですか、という不満は心の中に留めておいた。


「ねえ、起きてください」


呼びかけてみると虎徹は小さく呻きはしたが起きることはなかった。つまらない、と子供のようなことを思った。これでは休日の朝に無理矢理父親を起こす子供と同じではないか、頭ではそう分かっているのにどうしても虎徹に起きてほしかった。退屈だしつまらないのだ。いつもは鬱陶しいくらい構って退屈なんか感じさせないくせに、と半ば八つ当たりのようなことを思う。
退屈しのぎに虎徹の髪を引っ張ってみたが、全く効果はなかった。次に髭を引っ張ってみたが残念ながらこれも効果がなかった。虎徹は小さく声を上げはするが起きるまでには至らないのだ。こうなったら、と思いバーナビーは体に回されたままの腕を思い切ってはねのけた。これで起きるはずだ、そう思ったのに虎徹は「ううん」と唸って仰向けへと体勢を変えただけだった。


「………おじさん、起きてください」


ちょっとだけ切実な響きを帯びたバーナビーの声も虎徹には届いていないようだった。
こんなに呼んでるのに、という苛立ちのような感情はただの我が儘でしかなかった。自分で分かっていてもそれはどうすることもできない感情だった。虎徹の腕がなくなったのだからベッドから出て好きに動けるというのにそれでもどうしても虎徹に起きてほしかった。
バーナビーは体を起こすと、隣で仰向けになっている虎徹の腹の辺りに跨った。少々、なんというか積極的な行動ではあったがそれも虎徹を起こすためだと自分に言い聞かせた。少しずつ体重をかけていったが、虎徹はやはりというかなんというかくぐもった呻き声を上げるだけだった。少しずつなんて甘いことはせずに一気にいった方がよかったのかもしれない。
起きてくれない苛立ちをぶつけるべく虎徹の顎を噛んでみたがどういうわけかそれでも虎徹は起きなかった。


「……っ!虎徹さん!」


こうなったら能力を使って蹴り飛ばそうか、そう思った瞬間、虎徹の目がぱちりと開いた。


「ん……?あれ、バニー?」

「やっと……、起きましたね」

「あー、うん、おはよう」

「おはようございます」


眠そうに目を擦る虎徹はサイドテーブルの時計を見てまだこんな時間か、と呟いた。そして大きく伸びをするとバーナビーが乗っかっているにも関わらず体を起こした。


「バニーは早起きだな」

「あなたが遅いんです」

「ごめんな」


そう言って笑うと虎徹は触れるだけのキスをする。朝の挨拶だとでもいうようなキスだった。


「……寝ぼけてるんですか?」

「いや、そんなことねぇよ」


笑う虎徹の両腕はしっかりとバーナビーの腰に回されていた。そして、ちゅっと音をたてるなんとも可愛らしいキスが降ってくる。額、鼻先、両頬、唇、と次々に降るキスは幸福な朝の象徴のようだった。性のにおいを感じさせないそれらのキスはバーナビーの心をゆるやかに満たしていった。本当なら無理に起こしたことを謝らないといけないのに、虎徹があまりにやさしいキスをするから、しっかりと覚醒していたはずの脳はとろとろと溶けていくようだった。なんとも幸せに満ちた朝の始まりだった。











わがままな眠り姫とは逆のお話にしてみました。



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