瞼に当たる日の光が眩しい。

光りから逃れるべく、光源に背を向けて掛布団を深く被りなおす。

肩にも腹部にも冷たい感触。

―――――サクラ。

名を呼ばれた気がした。

心地よい声に、心がくすぐったい。

きっと夢だ。

穏やかなテノールは、自身に掛けられるはずがないのだから。

夢ならいくらでも想える。

その甘やかな夢にこそばゆくなる。

身動ぎする度に肌の上を布がつるつる滑って肌触りがよかった。

ここ最近長期任務や病院駐在が続き、久々の布団での就寝だったのだ。

何よりこの夢をいつまでも見ていたい。

まだもう少し寝たい。





「そろそろ起きろ」





突如掛けられた声に春野サクラは飛び起きた。

聞きなれた声の主はうちはサスケだ。

聴覚のみならず、視覚でも確認することができた。間違いない。

「なんで、ここ・・・」

サクラを覆う環境が常と違った。

サクラの見覚えのある自室ではなかった、という認識である。

呆然とするサクラの目の前が突如何かに覆われる。乱暴に投げられたのは柔らかな布だ。

布を外すと正面には見慣れた端正な白い面―――に、深く刻まれた眉間の皺―――絶対的な不機嫌を表している。

何だ。

何があったというの。

益々萎縮するばかりだ。

「着ろ」

放り投げる様にテノールに告げられ、サクラは自身が裸だったことを思い起こす。

こくこくと壊れたおもちゃの様に激しく頷いて与えられた布を羽織る。そして胸の前で布を掻き集めた。

(見られた! 胸・・・!)

縮こまって溶けてしまいたいくらいに恥ずかしかった。

胸の大きさ―――小ささが春野サクラの最大のコンプレックスなのだ。

眼差しから逃れるように背を向けようとしたところで気付いたのは下腹部の違和感。

春野サクラは処女だった。

できることなら想う人と結ばれたいと日々願うばかりで、意図的にではなく、結果的に処女なのだ。

そして必要性を感じたこともなかったために、自身で性器を弄る習慣もない。

何よりもこの下腹部の違和感は果たして。

今現在のシチュエーションにまったく頭の整理が追いつかない。

―――――――昨晩。

任務明けが同じタイミングになった同期メンバーでアルコールを堪能したことは記憶している。

数日間の緊張から解き放たれて、少々羽目を外したのは通例のことだ。

しかし。

それにしても。

ごっそりと記憶が脱落するほど飲んだ記憶も羽目を外した記憶もない。

サクラは昨晩のナンたるかを思い起こすべく記憶のスペックをフル回転させる。

が、こめかみを襲う頭痛が思考を邪魔して集中できない。

「さ、スケ、くん」

「覚えてねぇ、と」

ガチリと固まったサクラに、サスケは嘆息を吐いた。呆れたような、諦めたような、苛立ったような嘆息。

「・・・風呂入ってこいよ」

退室を促すように部屋の扉を開け放たれ、白い顎が行先をしゃくった。

声なく頷き、サクラは呆然としたままフローリングに沿って部屋を出た。

その薄い背中を深いため息が見送った。







その嘆息が熱を篭らせていたことに、サクラは気付くことなく。
















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