残暑と言うには物足りない暑さ。早くも秋めく気候の中、久し振りの学校は妙に懐かしい気がした。
「久し振り。朽木さん」
「あら小島君。おはようございます」
相変わらずの猫被り。
俺の後ろから教室に入ってきたルキアが、声を掛けてきた水色に笑顔を向ける。
その遣り取りを、俺は鞄を机に放り出しながら聞いた。
間髪入れずに、久し振りだからとお約束のように絡んで来た啓吾。
取り敢えず、で軽くいなすと、ウザいくらいにショックを受けて走り去っていく。
変わらねェな、と半ば感心しつつ呆れていると、いつの間にか来ていたチャドがいつもの調子で同意した。
高校生の夏休み。真面目に勉強してるヤツも居れば、ここぞとばかりに羽目を外して自分にとって未知の世界に足を踏み出したりするヤツも居る。
そして、どの連中も強制的に普通の学校生活へ軌道修正を迫られるのが日本の学校の新学期。
特にそれが顕著なのが、丁度今の俺達の年代。
休み中だけ髪染めてたヤツとか、染めたまま戻す気の無いヤツとか、外見は大して変わらないけど何かあったらしいヤツとか。
色々居るけど、だからって本当に休み前と変わってるヤツなんてまず居ない。
変わってないのが良いとか悪いとか、そういう問題じゃなく。
俺達の世界は基本的に平和で、それは結構重要な事だろう。

開け放たれた教室の窓から、少しだけ温度の低い風が入る。
そういや今年は冷夏だったな。というのを、夏が終わりそうな今になってから実感する。
椅子に座って、賑やかな周囲をぼんやりと見た。
授業が始まるのが面倒とか、受験生になる来年は夏休みなんて無いとか、
終わった夏と始まる季節に文句を言いつつ、教室を埋める喧騒は平和だ。
そして、その平和な世界の平和な学校で、クラスメートと笑顔で――
例え多分に猫被りの要素が残っていようとも――喋っているルキアを見て、
戻って来たんだな。と、唐突に思った。



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劇場版DVD発売記念。
FTBの後日談的な話。取り敢えず1話目。
2話目は次ページ。



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