意識を失っている人間はどうしてこうも重いのか……ロックオンは、そんな事を考えながら、ティエリアを運んでいた。せっかくの地上のリゾート地での待機命令だというのに、ロックオンの仕事は子守り……もとい、人の面倒を見ていて普段とあまり変わらない。
原因はスメラギ・李・ノリエガの飲んでいた酒にあった。彼女が飲んでいたものが日本酒で、見た目が水と変わらない事から、ティエリアが間違えて一気飲みしてしまったのだ。飲んだ直後は意識があったので、多量の水を飲ませた。体には問題がないだろうと思いたい。
「ほら、ティエリア」
「ん……」
ティエリアをベッドに寝かせる。ごろんと転がった姿が子どもじみていて、ロックオンは思わず微笑んだ。
「そーゆーとこは可愛いんだよな」
反則だよなと心の中でつけたして、ティエリアの頭を撫でた。絹糸の様な髪質で撫でていても気持ちいい。こういうところは役得かもしれないと思った時だった。ティエリアが急にぱちりと目を開けて、むくりと体を起こした。
「どうした、ティエリア」
「ロックオン」
がしりとティエリアの頭に乗せていた手がつかまれる。振り払われるのかと思ったが、どうやら違うらしい。てのひらに頭を擦りつけてきた。
「ティ、ティエリア?」
「もっと撫でろ」
言われたとおりにロックオンは頭を撫でた。ティエリアは気持ちよさそうに大人しくしている。まるで甘えたい盛りの幼児か、喉をなでられている猫みたいだ。いつもこうだったらなあと儚い希望を抱いて撫でる。さらさらと流れる髪と、小ぶりの頭。綺麗なラインの後頭部を、ロックオンは眺めた。
十分に満足したのか、目を閉じていたティエリアが目を開いた。顔を近づけてくる。
「んー」
ちゅっと音のするキスをされる。ロックオンは目を見開いた。そんなロックオンを気にせず、ティエリアはちゅ、ちゅっとくちびるにキスを何度も施した。
俺、どうしたらいいんだ。
場所は普段の味気ないプトレマイオス内ではなく、幾千万の星がまたたく夜空の見えるリゾート地。いつもツンツンしているティエリアが自分から可愛らしいキスをしてきたのだ。シチュエーションはばっちりだ。ロマンチストなところがあるロックオンはくらりときた。
自分からキスをしようかと、ティエリアの顔を覗き込んだ。途端、キスをしていたティエリアの動きがいきなり止まる。ロックオンの肩に倒れてきた。ティエリアの腕がロックオンに絡む。
「ティエリア?」
ぜんまいの切れた人形のように、ティエリアはすうすうと寝息を立てて眠っていた。そうだったこいつは酔っ払いだったと、今更になって思い出す。
「しかも、しっかりホールドさせてるし」
自分に絡みついた腕が外せそうにない。ロックオンは諦めて、今夜はティエリアの抱き枕になることにした。